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ようやく上げ始めました、二万打お礼。
第一弾は王の庵より、孤児院時代の話。
「お引き取り下さいな」
凜と澄んだ声が、確かな意思を持って室内に響く。
そして、その声の持ち主と相対している大人は困ったように、しかしどこか焦ったように愛想笑いを浮かべて言った。
「ですが……ここを引き払っていただかなければ、私たちとしましても計画を…」
「残念ですが、私たちはそのような事業があるとは聞いておりませんの。ですから、引き下がる用意など始めからありませんわ。それに、いくら大金を積まれようと私は……私たちは、ここを誰かに明け渡す気は更々、ございません」
「しかし、管理者には既に許可を取っておりまして…」
「本当ですか?」
そう言ったのは、大人と対峙している少女はなく、直ぐ傍で足を組んで座っていた…少女と見紛うほどの美貌を持った少年だった。
眼鏡の奥から鋭い視線を投げつけ、少年は詰問するように言う。
「あの管理者が許可すると、そう言ったのですか?」
「え……えぇ、証書もここに…」
鞄から取り出された書類を受け取り、少年は一瞥した後にそれをテーブルに落とした。
「確かに本物のようですね」
「では、」
「…しかし、我々が出て行く理由にはなりません」
「……は?」
目を白黒する男を見て、少女が一言。
「管理者が施設の持ち主とは限りませんことよ?」
「こういう書面には、管理者でなく持ち主が署名するものと思いますが」
どうせあの管理者、ろくに書面も読まずにサインしたのでしょうと、呆れた風に溜息を吐く少年に苛立ちを覚えたのだろう、黒スーツを着ていた大人は目元を険しくした。
「じゃあ、一体誰が持ち主だと言うんだ!?言える物なら言ってみろ!」
一応とはいえ取り繕っていた外面も剥いで、その大人は怒鳴った。中々折れない子供たちを不快に思っていた上に『書類が無効』とまで言われてしまったのだ。コケにされていると考えてもおかしくなく、従ってこの怒りも理不尽ながらも納得できる物ではあった。少なくとも、少女と少年にとっては。
だから、もう少し猫を被って居てやろうと考えていたのだが……部屋の壁際にいた双子の内、今ここに残っている方がビクリと体を震わせたのを見て、考えを変えた。
撤回。こいつは『敵』だ。
ならば……もう、敬語は要らない。
「どうせ貴様、管理者にたらい回しにされてきたのだろう?サインをしたから、あとは俺たちとどうにかしろ、と」
「なっ…」
少年の突然の豹変に身じろぎした男に、少女がクスリと笑って言葉を紡いだ。
「バカですのね。あちらで話が済むことなく…こちらに回されたと言うことは、こちらに実権を握る誰かがいるということではございませんこと?子供に許可を聞かなければ理由なんて、そのくらいしかありませんわ。大人ならば考えついても良いかと思いましてよ?」
「でっ……では、それは誰だ!?」
「僕ですよ」
進み出たのは、成り行きをハラハラと見守っていた最年長者の一人……眼鏡に、こちらはポニーテールが特徴的な少年だった。
彼は困ったように笑った。
「祖父からいただいた施設なんですが…僕のような若輩者だと色々と問題が起きるので、あの管理者にそういうことは任せているんです。あ、出来る限りのことは全てしてますよ」
「でっ…ではこの書面にサインを…」
「断ります」
やんわりと、しかしハッキリと拒絶の意を示し、彼は苦笑を浮かべた。
「僕はここが気に入っているので。それに……」
「それに、俺たちが聞いていないのではなく…貴方が言っているような計画は実際はないのだろう?子供だからと、嘘をついてもばれないとでも考えたのか?……愚かだな」
続きを引き継いだ少年は立ち上がり、書面を大人へと突き戻した。
「帰れ。郊外とはいえ都の中にあるこの土地が欲しいのは分かるが、管理者と違って俺たちは大金を積まれようと動く気はない……先に、この女が言ったように」
「女とは失礼じゃなくて?」
「気を害したか?ならば謝罪しておこう……で、どうするんだ?」
フン、と嘲り笑う少年の態度に血が上ったのだろう。
大人は勢いよく立ち上がり、少年の襟首を掴み上げた。
「いい気になるなよ、ガキが……ッ」
「本性を現したな…」
「黙れッ!」
状況は圧倒的に不利だというのに、その少年は冷静そのものであり、それがよけいに男の苛立ちを増長させる。
空いている手を振り上げた男の、しかしその手が振り下ろされることはなかった。
何故なら。
「お引き取り願います」
「なっ…何だお前はッ!」
その手は、長身の少年によって捕まれていたからだ。
ギリギリと締め付ける感覚に痛みを覚えていると、再び澄んだ声が。
「紅龍、そのお方には『退場』していただいて」
「…分かりました」
そして…
「……今回のはまぁ、どちらかといえば良い方か」
「あれで良い方というのが泣けてきますわ」
少年と少女……ティエリアと留美は、ソファーに座ったままお茶を飲んでいた。……何事もなかったかのように自然と。
向かいに座っているのは当然ながら男ではなく、壁際にいた双子の片割れ…アレルヤ。
そして、アレルヤは心配そうな表情を浮かべていた。
「ねぇ…ティエリア……大丈夫?」
大丈夫、というのは先ほどの男の、あの行動についてだろう。
掴み上げられて苦しいかったのは事実だが、外傷はないのだし……これは、おそらく『大丈夫』の域に入るだろう。
そう判断して、ティエリアはティーカップを取った。
「問題はない。殴られる前に紅龍が行動を起こしたからな」
「……本当?」
「あぁ」
頷いてみせると、心の底から安堵したという表情。
アレルヤのそんな表情を見て微笑んでいると、隣からポツリと、からかいを含んだ声が聞こえてきた。
「苦しかったくせに…大好きな子の前では格好良くありたいのかしら?」
「……」
無言で足を踏みつけようとしたら、留美は避けるように立ち上がった。……何と言うか、やっぱり手強い。グラハムも手強いが、あれとは別の意味で手強く、どっちがより手強いかと言えば…どっちも優劣付けがたい。両方同じくらい、逆ベクトルで手強いのだし。
立ち上がった彼女はそのまま窓際へと行き、がらりと窓を開いた。
「紅龍、どうでして?」
「もう少しで終了します」
「そう、ありがとう」
そして、そのまま窓を開けたままにする留美を見て、ティエリアは半眼になった。
「……留美、窓を閉めろ」
「あら、何故でして?」
「開けていると悲鳴が聞こえて騒々しい。精神衛生上良くない上に、そうしている理由もない。紅龍がやりすぎることは無いだろうし、カタギリも一応共にいるのだから」
ここにグラハムと共に買い物に行っているメンバーの一人……双子の片割れ、ハレルヤが居たならば…まぁ、開けておく必要もあったかもしれないが。彼がアレルヤを一瞬であれ怯えさせた対象を許しておくわけがないのだから、行き過ぎないように全員で監視する必要があっただろう。
けれど実際は彼は居ない。
必要性もないのに何が悲しくてそんな、聞きたくない物を聞かなければならないのか。
そういう思いを込めて睨みつければ、苦笑を浮かべて留美は素直に窓を閉じた。
「…これで、あの人は二度とここに来ないよね…?」
「ん?…あぁ、こんな目にあっても再び来るような、そんな物好きではないだろう」
呟きながら不安げに揺れるアレルヤの瞳を見て、安心させるように微笑んでみせれば…まだ不安は残るものの、彼は薄く笑みを浮かべた。
それに満足して、ティエリアは紅茶の入ったカップを口に運んだ。
こういう地上げの人々が良く来る、という設定。
そしてそれを毎回撃退しているという裏設定。
…このメンバーなら、絶対に出来ると思う。