[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
177
「くしゅっ」
「ん?風邪か?」
「いや……違う。俺はいたって健康状態だが」
などと言いながらも窓を閉め、おいてあった上着を着るティエリアは、結構どころでなく真面目だった。
さすがは完璧主義者。もしもの状況も許さないらしい。
よくやるねぇ、と呟きながら、ミハエルはベッドに身を埋めた。
「にしてもなー、アレルヤから別室で寝ろってお達しが来るたぁ、思ってもみなかったぜ」
「全くだ。貴様のせいで俺までもが巻き込まれてしまった……一体、どのようにして責任を取ってくれるつもりだ、ミハエル・トリニティ?」
「いやいや、あれは俺とお前、両方の責任だと……」
ドガッ
「……何でもないです」
「よろしい」
思わず身を小さくすると、満足そうな声が返ってきた。
……『ドガッ』の所で何が起こったのかはあえて公言しない。が、堅い部屋の壁にへこみ及びヒビが現れているとだけを示しておこう。それから、へこみの下の方には花瓶が落ちていることくらいを。
つまりはそういうことである。
……あまり、彼は怒らせてはならないタイプだ。
「…てーか、弁償どうすんだよ」
「君が払うに決まっているだろう」
「あー、俺ね……」
拒否権なんて無いんだろうなぁと空(天井しかないが)を仰ぎ見ながら思う。どこかの誰かではないが、本当にこの世界に神はいない。
にしても……と、ふと、今の自分について思う。
まさか、たったの約一日にでここまで丸くなれるなんて…思っても見なかった。ハッキリ言うと意外、の一言に尽きてしまう。
自分のことだけではない。ネーナだって心変わりをしたようだし、ヨハンだって……いや、兄はあんまり変わってないような気がする。前からあんな感じだった。
……まぁ、たとえ変わろうと変わるまいと、染みついた習慣は消えないわけで。
起き上がって荷物を手に取り、中からナイフを取りだして手入れを始めながら、ミハエルはこんなもんだよな、と一人思った。自分にとってナイフというのは大切な武器である。寝る前に手入れするのは習慣になっていた。
そんな自分の様子に呆れたように息を吐く音。
チラリと見れば、そこには案の定というか……彼以外に部屋にはいないから当然なわけだが、ティエリアがいた。
「んだよ……」
「別に。手慣れているようだから習慣とは思うが……守られている今、ここはどこより安全だぞ?何かを迎え撃つ備えは必要あるまい」
「でもやっぱ、やんないと落ち着かな……守られてる?」
普通に返そうとして、彼の言葉の一つに引っかかりを覚えた。
守られていると言った。ならば、守っている存在は何なのか。
問うように視線を送れば、フン、という笑い声。
「とりあえず、一行の中に守っている者がいないとだけ言っておく」
「じゃあ、誰が守ってんだ?」
「実に皮肉な話だとは思うのだが…」
言いながら、閉められた窓の先をティエリアは見る。
「異端を狩るために設置した機器。あれのお陰で監視は万全だ」
「…なーる。そりゃ、確かに皮肉だな」