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「……この状況で眠れ、だと……?」
「くー……」
「すぴー…」
「……グラハム貴様、ネーナ・トリニティより可愛らしい擬音語を…」

 男のくせに。
 これはあれか。乙女座だからか。センチメンタリズムな運命だからか。

 覚えたくもないのに耳にたこになるほど聞かされた言葉の数々が、ぐるぐると頭を回って離れない。離れて欲しいのに全く……いや、本当に離れてくださいと、こんな状況でも土下座をしたくなるくらい離れない。

 そして離れないのは何も、数々の迷言だけではなかった。
 離れないのは、自分を挟んで両側にいる二人もだった。

「……一体、何のための三人部屋だと思っている…っ」
「せつなー……うー…」
「しょーねーん…」
「黙れ…本当に黙れ、お前ら」

 横向きに寝ていたから、両側から両腕を一本ずつ拘束ということはなかったのだが……さらに酷いことになっていた。つまり、両側から抱き枕みたいにギュッと抱きしめられていたのだった。

 ……これで動けとか眠れとか言う方が無茶だろう。というか、そういうことを出来る誰かがいたとしたら、今すぐにでも会って弟子入りしたい気分だ。特に眠れない、というのがとてもキツイ。明日は都になれるために散策をするとか何とか言っていた気がするので、ここで寝不足になるとついていくことが出来なくなる。

 そうすると、ここぞとばかりに攻撃してくる相手がいるし、明日もこの二人は今みたいな状況だろうしで、やはり睡眠不足は辛い。自殺行為も甚だしい。そして、刹那は決して死ぬ気はない。

 どうにかして拘束を振り解こうと藻掻いてみるが、四本の腕でがっちりと固められているために無駄だった。指はともかく、腕一本動かせない状況である。

 その上足まで絡み付いているので、どうやっても『動く』という行為が行うことが出来ない。足さえ自由ならば蹴飛ばす位は出来たかも知れないのに。何というか……そう神は無慈悲だ。もちろん神はいないけれど、いるなら本当に無慈悲過ぎる。いや、やっぱりいないからこその、自分のこの仕打ちなのだろうが。

 その証拠に、都に着いてからどんどん嫌な予感がわき出てくるのだ。命の危機的状況に陥るという予感ではなく、もっと安全だが危険な事態が起こるような予感。たとえるならば、刹那のとある親類が何かを思いついた時のような感じ。付き合わされるので、いつの間にかタイミングやら時期やらが直感で分かるようになっていた。

 まさか……と思い、まさか、と首を振る。
 有り得ない。というかあったらいけない。

 あの国はまだ落ち着いていないし、そこを国主が離れる事を侍女たる彼女が許すわけがないだろう。しっかりしていて、いざというときはあの皇女に逆らうことの出来る強者たる彼女が。

 しかし、ならば先ほどから消えないこの予感は、実際は何だろう?
 どう考えても彼女関連だとしか思えないくらいの、嫌な予感なのだが。

 と、そこまで考えて止めることにした。
 それよりも、今は。

「この状況をどう切り抜けるべきか…」
「くかー…」
「すやー…」

 こちらの気苦労など知らないように……多分知らないんだろうが、割り当てられたベッドでなく刹那のベッドに入り込んだグラハムとネーナを見て、溜息を吐いた。

 

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