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何だか年末的話になりました。大掃除的な。
12.水彩絵の具
それは誰が言い出したんだろうか……何故か、艦のクルー全員で大掃除をしようということになった。何でも、たまには機械ではなく自分たちの手で、自分たちがいつも生活しているこの艦を綺麗にしようということらしい。長年の感謝を込めて、と。
ただ提案されただけなら良かっただろう。
だが、この案は何とあっさり承認されてしまったのだ。
そういうわけなので、掃除は実行されることとなり、見慣れたメンバーがプトレマイオスの中を綺麗にしている姿が、あちらこちらで見られることとなった。
例えば、あちらを見ればぞうきん掛けをしているのは刹那。足腰はしっかりしていると聞いていたが、そういう理由からかぞうきん掛けのスピードは速い。近くでロックオンが壁を磨いている。隣のハロも同様にしていて、さらにその隣に緑のハロ、桃色のハロ、青色のハロと…ハロの兄妹たちが並んでいるのは微笑ましいと見るべきか、それとも目を背けてしまうべきか。何とも言えない光景だ。
今頃、食堂の方ではフェルトとクリスティナがモップを掛けていることだろう。リヒティとラッセはブリッジ。スメラギはブリーフィングルーム。モレノは当然ながら医務室で、イアンも当たり前のように格納庫にいる。
そして自分ことティエリアと、名前の挙がらなかったアレルヤは倉庫の整理をしていた。
「うわぁ……結構たくさんあるねぇ」
「あるのは良いが……こんな物、何に使うんだ?」
倉庫内に踏み込んで、感嘆と共に見渡すのはアレルヤ。その傍で、綺麗に編まれた多分手作りの絹織物を見て嘆息しているのはティエリア。
感動しているアレルヤには悪いが、色々な物を見る事よりは、色々な物がある理由が気になるティエリアだった。
もちろん各国の明細な地図や銃など、CBの艦にあってもおかしくない物もある。
が、料理の本だとか、小さい子供向けの玩具だとか、幼児用の服だとか、使い込まれた絵本だとか、高価そうなバッグだとか、ホコリを被っているアコーディオンだとか、どこかの学校の入学案内だとか、開けられていない染毛用品だとか……ワケの分からない物も多いのだ。特にアコーディオン。何に使うつもりだ。
この倉庫の様子はユニオン、人革連、AEUのどこにも見せてはいけない。そんなことをしたら、『世界の敵』あるいは『希代のテロリスト』または『畏怖の存在』であるCBのイメージが著しく損なわれることになる。
それだけは避けなければならない。
では、避けるためには何をすればいいかといえば……簡単なこと。
「アレルヤ・ハプティズム」
「ん?ティエリア、何?」
「即刻、片付けるぞ」
いらないものや不必要な物を処分すればいいのだ。
そもそも、こんな情報が各国に流れること自体が有り得ないのだが……もしもの状況というのは、やはり存在するのだ。いくら警戒してもしたり無いだろう。
「あ、絵の具もあるんだ」
グッと胸のあたりで握り拳を作っていると、アレルヤの楽しげな声。
「全色揃ってるんだね……あれ?どれも使ってない?どういうことかな……いやいや、まさかそれは無いと思うよ、ハレルヤ。だってそれなら開けられて無いはずで、ビニールの袋に入っているハズじゃないか……いや、そこまでは僕も分からな、」
「……アレルヤ・ハプティズム」
「ひゃっ!?」
耳たぶを引っ張って彼の側頭部を口元に近づけて耳元で呼べば、突然のことだったからだろうか……素っ頓狂な声が上がる。このシーンとは何かがそぐわない気がするが、今はそちらが問題ではないので放っておく。
「いいか、アレルヤ。今はハレルヤと話している場合でも水彩絵の具を気にしている場合でもない。直ぐにこの倉庫を片付けなければならない……分かるな?」
「わっ……分かるけど…」
「何だ?反論でもあるのか?」
「ちょっと気になるなー……とか。だから片付けより先に何か良い物がないか探してみ、」
「ダメだ。宝探しをする暇があったら片付けを遂行するべきだ」
言いながらパッと手を離すと、無理な体勢で僅かにかがめられていた彼の体が伸びる。背では勝てないので自然と上がってしまう目線が、少しだけ悔しい。
だが、そんな思いは切り替えて、ティエリアは目の前の山へと意識を向け直した。
のだけれども…
「あ、あっちには筆もあるよ、ハレルヤ。…え?あ!本当だね、こっちにはキャンパスもあるね。誰か絵を描く人でもいたのかなぁ…」
「アレルヤ!」
……こんな状態の彼と、果たして倉庫整理が出来るかどうか。
前途多難とは、きっとこのことを言うのだろう。
溜息を吐きながら、ティエリアは思った。
ていうか本当に、こういう姿を敵の皆様が見たらどう思うんだろうか。