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番外編・5
「いい加減に手を打ちませんと、姫様が危険です」
「でしょうな。時に人は簡単に道を外すものです」
「味方も少数とはいえ、王宮内にいないこともないのです。けれど……圧倒的に数で負けてしまっていますわ。支持者を増やす努力はしていますけれど、それがどれほど実を結ぶかは不明、といったところかしら」
つまり、現状は頗る悪いと言うことだが。
はぁ、と溜息を吐いてシーリンは座っている賢人へと視線をやった。
「私に、一体何が出来るでしょうか?」
「今のまま、傍で支えるだけでも充分ではないですかな?」
「かも知れません。けれど……それでは、不十分です。状況がそれを許しません」
「……現実とは、なかなかに手強いものですな」
憂いを帯びているその顔に、先ほどの刹那を思い出す。
そういえば、目の前の賢人も、リビングに置いてきた少年も、どちらも王宮に立ち入ることを許可されているというのに、一向に近付こうとしない点では同様だ。
二人とも、嫌なのかも知れない。その『現実』を形成している人間たちの思惑や悪意といった、ドロドロとしたものが。性に合わないという所もあるだろうが、こういう理由もあるいは存在しているのかも知れなかった。
「ラサー、王宮に戻ってくださいとは言いません。代わりに……今よりも、少しでも王宮へ訪れる回数を増やしていただきたいのです」
「それに意味は?」
「もしもの時のため、傍にいる味方は一人でも多い方がいいでしょう」
賢人として国内では名の知れ渡っているラフマディーがその場にいる。
たったこれだけの事実によって、敵は攻撃の手を緩めるだろう。それほどまでに『賢人』の存在は大きいのだ。
「構いませんか?」
「その程度のこと、喜んで受け入れましょう」
「……すみません。老体だというのに…」
「お気になさらず。私としても、この国のためになるのならば光栄です」
本心からであろう言葉に、シーリンは暖かな気持ちになった。
そう。こういう大人が自分たちには必要なのだ。
親身になって、その知恵を貸し与えてくれる大人が。
芯がしっかりしていたとして、知識をいくら持っていたとして、警戒心が強かったとして、強大な力を持ていたとして……結局の所、最後に勝つのは上手く立ち回る者だ。
残念ながら、自分にはまだそこまでの立ち回りは出来ない。子供のこの身では経験などたかが知れているのだ。たとえ知識を蓄えようと、対人関係は自らで接して学んでいくしかない。人の心は本では分からない。
「相談はこれだけですかな?」
「えぇ。姫様に聞かれたらダメだと言われそうですから。ラサーにはゆっくりとして欲しいと言って聞かないでしょう」
「ありがたいことです」
話はこれで終わりと、シーリンとラフマディーは部屋から出た。
リビングに向かいながら、ふと、忘れていたことを思い出す。
今日は……彼は、まだ宿に止まっているだろうか?
出て行った可能性もある。彼はこの場所に定住しているわけではないのだから、引き留める物は一つとして無い。何より、彼は親と共に来ているだけであって、あまり彼の意見は滞在と関係ないというか。
しかし、止まってくれていた方が良いのも事実。
止まっていなければ、五つ目のリンゴが無駄に余ってしまう。