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カシャン、という小さな音を耳が捕らえた。
何だ……?と辺りを見渡しても、それらしい物はどこにもない。音の大きさなどから、近くで鳴ったのだというのは分かるのだが。
訝しく思っていると、さらに不思議なことが起こった。
対峙していたリジェネの顔から余裕が無くなったのだ。
そうしてリジェネはこちらのコトなどお構いなしに、青ざめているとも言えそうな表情でとある一方向……丁度、こちらからでは影になっていて向こう側が見えなくなっている壁の向こうを見た。そこに、誰かがいるらしい。
「……ねぇ、何をしたの?」
「……」
「何をしたの?」
「……」
彼の声に答える言葉はなく、返ってくるのは沈黙のみ。
それに焦れたのか、リジェネが声を荒げた。
「何をしたのかって訊いてるんだよ!」
「……」
それでもやはり、返事はない。
が、代わりに壁の向こうから人影が現れた。
それは真っ黒な、床に付きそうなほどの長い髪が特徴的な子供。うつむき加減であるのと同時に前髪が邪魔で、表情などは見えない。首元には……見にくいが、鎖が巻き付いているようだ。緩くて苦しくは無さそうだが、外し方がイマイチ分からない鎖。取り付け方も分からない上に禍々しい感じが伝わるから……何らかの能力の具現か。
そして…服は女物だった。
ということは少女なのだろうかと考えてみるが、何となく違う気がする。根拠も何もない勘なのだが、多分、間違っていないだろう。よく見れば若干ほど、自分の服装を恥ずかしがっているような気もするし。
「……もう一人は、どうしたの?」
「……」
リジェネの問いに答えることなく、子供は一歩足を踏み出した。
何気ない一歩だが、それはどこへ向かおうとしているかが見ただけで分かるような、そんなしっかりとしている歩み。そして、向かおうとしている先は……先ほど会った、金眼の青年の元。
と、ここでアリオスはハレルヤが目を見開いて子供を見ていることに気がついた。感情としては『どうして』という思いが強いだろうか。どうやら彼と子供は知り合いらしく、子供の方はここにいるのが疑問でならない存在であるらしい。
知り合いとなれば、一応は味方と考えるべきだろうか。少しだけ警戒を緩めながら、それでもキュリオスの前に立って壁になる。警戒は緩めたがあくまで少し。本当に味方かも分からないのだから、この反応もやむ無しだろう。
「……お前、何でそんなんになってんだよ」
「……」
リジェネからもハレルヤからもある程度の距離を取った所で子供は止まり、今回は言葉に反応を見せて軽く手を挙げ、人差し指でリジェネを指した。彼のせいだと言いたいらしい。が……どうして喋らないのだろうか。あるいは、喋れないのか。
新しい登場人物は呆然としているリジェネを見て……微笑みを浮かべた。
そうして、言った。
「無理だよ、最初に作られた君。君には無理だ」
気付けば、首の鎖が消えていた。