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最初に気付いたのは、果たしてどちらだったか。同時だったかも知れない。
ともかく、ヴァーチェは場を満たした妙な空気に眉根を寄せたし、杖になっているセラヴィーの方も何かを感じたらしく戸惑った気配を見せている。
あまりに突然に、一瞬で、ハッキリと現れたその気配。
その気配を、自分たちは知っていた。
「これは……『世界』の…」
「……顕現、だね」
かつて『世界』は意志をもつ一つの人型だったという。
それが膨大な力を持ってして世界と混じり合い、今の『世界』が誕生したと。故に、『世界』には意志があり、時としてその意志が人型に降りることがあると。
そう、父から聞いた。
『世界』という物がどのような存在であるかは父に全て教わり、どうやら自分たちは一度は『世界』と出会っているらしかった。その時は父の『世界を殺せ』という言葉もなく、普通に出会って普通に話して普通に忘れ、ただそれだけだったのだが。
素速く目を走らせ、ヴァーチェは周囲の状況を確認した。
まず自分たち人形。全員が要すからして、『世界』の顕現を察知したようだ。
次にリジェネ・レジェッタ。自分は実際には見ていないが、父の仇である存在。彼も感じたのだろう、酷く戸惑う気配を見せている。
そして。
子供はどこか嬉しそうな顔をしていたし、もう一人、様子が変なのがいた。
それは……ハレルヤ。
「…ハレルヤ?どうかしたのですか?」
「……いや…」
流石に気付いたのか訝しげなソーマの言葉に、返すハレルヤの言葉はどこかボウッとしている感じだった。我ここにあらず、というような様子。もっと別の物に意識が持って行かれているような。
そして気付く。確信する。
『世界』が顕現しているのは彼に、だ。
しかし…だからといって、何が出来るわけでもない。彼にはまだ、完全には顕現が為されていないように思える。ならば、そんな状態の彼をどうにかしたところで意味など無かった。
「ねぇ、最初に作られた君、この場はお開きにしない?」
「……突然、何?」
「突然でも何でもないよ。僕がここにいる時点でその流れは決まってた」
子供は笑い、リジェネを見て、次にこちらを見た。
笑みが、微笑みに変わる。
「君たちも早く去った方が良いよ?そろそろ来ると思うから」
「来る、とは何が……かな?」
「さっき裂け目、作ったでしょう?」
その言葉にそういえば、とヴァーチェは事前知識を思い起こした。
この都には、異端の能力を察知するための機器が、至る所に設置されている……という話だった。ならば、この美術館だって例外ではないのだろう。
ということは、つまり。
「面倒な戦いをしたくないなら、ね?」
「貴方は来ないのですか?」
「行かないよ。僕らは」
そこで区切って、子供はゆっくりと手を差し出した。
「僕の片割れと、僕だけを友と呼ぶ君、君たちはいて。全てを教わる権利を持っているから」