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拍手再録です。
これからどんどんと増えていく予定。
~はじめましての時~
気がつけば、俺たちはそこにいた。
五人、名前もない状態で、ただそこにいた。
初対面のハズなのに昔から知っていたかのように感じる他の四人と、どこかの部屋の片隅に集まっていた。本当に、自分たちが何者かも分からないままに。
そんな自分たちに気付いたのは、白衣を着ていた五人の大人たち。
五人の研究者たち、だった。
「お前さんたち、どこから迷い込んだんじゃ?」
「……知らない」
気付けばここにいた。
そう続けると、彼らは不思議そうな顔をした。恐らく彼らは前からここにいて、自分たちのようなのが入ってくる余地がないと。それを知っているのだろう。自分たちも何となく知っていたけれども。
つまり、自分たちは自然と発生してきたことになる。
それは有り得ないことなのだろうが、しかし、それが正しいのだと漠然と感じていた。
果たしてそれを目の前の研究者たちに伝えることが出来るのだろうかと、それは心配なところだが。彼らが自分で答えに辿り着いてくれればそれがベストだ。
だが、その心配は杞憂だったらしい。
隣で自分の服の裾を握っていた黒髪の誰かが、怖ず怖ずと口を開いた。
「多分な……俺たち、生まれてないんだと思うんだけど…」
「ほう?妙なことを言う子供じゃの」
「これから、もしかしたらアンタ達の手で作られるんじゃって…勝手な直感だけど」
その言葉に、五人の研究者たちは一斉に何かに気付いたらしい。瞬時に互いに顔を見合わせてコクリと頷いた。心当たりでもあったのだろうか。
ジッと見ていると、変な眼鏡のようなものを付けている研究者と目があった。
思わず眉をしかめる。感情が読めない。
「成る程……殺戮の道具が意思を持ったか」
「殺戮……?」
茶髪の誰かが不安そうに呟くが、それは相手の耳には入っていないらしい。入っていたとしても意図的に無視された……のだろう。
そして、相手はさして憐れんでいる様子でもなく言った。
「憐れというべきかのう……しかし、五人というのはどういうことかの。…まぁ、良いわい。お前さんたちはこの場にいると良い。時が来るまでのう」
言われるまでもなく、そうなるのだと分かった。
(2009/02/11)
~名前~
そろそろ名前を付けよう、と言うから。
いらない、と答えた。
「いらない、とな?」
「いるわけないだろ」
そう言うと、『自分』を造っている研究者はやれやれ、と肩を竦めた。子供扱いされているように思えて嫌だったが、実際に子供扱いされているのだろうコレは。そして、子供扱いというのもまぁ、この相手ならばそれ程間違ってもいない。自分は彼によって造られているのだから。だから、自分に親がいるとしたら彼だ。
それはともかく。
名前なんて、欲しくなかった。
「何故そのようなことを言うか、教えてくれるかね?」
「……道具に固有名詞なんていらないだろ」
ガンダムならガンダムと、それだけで良いではないか。名前なんてものがなまじあったら、きっと自分は。
存在が許されていると思ってしまう。
兵器にまさか、そんな、存在を許されるなんて事が起こるわけがないのに。
「だから、いらない」
「じゃが、残念ながらもう考えておっての」
「……はぁ!?」
「お前さんの『いらない』という意思は、関係ないのじゃよ」
もう開発スタッフにも告げておる。こう続ける自分の創造者に……ちょっと頭が痛くなった。そろそろ名前を付けよう、ってどこの口が言ってたっけ。そろそろどころでなく、もうすでに名前付けてるしこの人。
やっぱ、諦めるべきだろうか。色々と。
「お前の名前は『デスサイズ』じゃ」
「……凄い名前だな」
「命を刈り取る兵器には相応しかろう」
どうじゃ?と問いかける彼に、自分は……『デスサイズ』は笑って答えた。
どうせ何を言っても名前は変わらないだろうけど。
「気に入った」
それは本心だった。
(2009/03/14)
~家事とか自炊って難しい物でしたっけ~
それは、精神体の特権を活かしてウイングの所に遊びに行っていたときのこと。
「…なぁ、ちょっと訊きたいんだけどさ」
「何じゃ?」
「何で少し目を離した隙に部屋の中がごっちゃになるわけだ!?」
ビシッと指を指すのは、ドクターJの自室の中。
そこは完全にごちゃごちゃとした空間になっていて、整理整頓とかちゃんとしないのかとデスサイズが頭を抱える原因になっている。床に散らばっているのは多分ウイングの設計図だし、ベッドの上には服が放られたままだし。プロフェッサーGの様子も毎日見ていることから、ドクターJもウイング組み立てに集中しているのだというのは分かるのだけれど……それで他の諸々が蔑ろになっているのは分かるのだけれど。
頼むからもう少しくらい気にかけてくれ…と切に思うのである。
そうでないと、週一でこちらに片付けに来る、という出来上がってしまった習慣がどうしようもなくなってしまうではないか。
ため息を吐いて、とりあえず掃除は後だとドアを閉める。
「あぁ……研究者ってのはどいつもこいつも……」
「お褒めにあずかり光栄じゃな」
「褒めてないからっ!………そういやウイングは?」
「あぁ、昼食を作るとか言っておったが」
ドクターJがそう言うのと同時に、どこからともなく聞こえる爆音。
「……な、ドクターJ」
「どうかしたかの?」
「ウイングってさ、料理の腕とか上達した?」
「いや、全くじゃな。少しは上がっとるのかもしれんが」
…ということは。
デスサイズはドクターJを置き去りに、台所があるはずの場所まで走っていった。
そうして見えた光景は。
「ウイング!お前また何か間違えただろ!」
「いや、ちゃんと料理本を見てやっていたはずなんだが……」
「それでこれが起こると!?」
台所の中は大惨事だった。床が、壁が、天井が焦げ、フライパンは穴が開いている。
その惨状を、ウイングは腕を組んで眺めた。
「自分で言うのも何だが…これは逆に凄いな」
「お前…そんなこと言う前に、その壊滅的な料理の腕をどうにかしろよっ!」
(2009/07/10)
~意味については考えません~
まだオペレーション・メテオどころか本体となる機体すら完全には出来上がっていなかった頃の、とある日。
サンドロックは、ナタクの所のコロニーに来ていた。
正直、暇だったのだ。任務を待ち望むわけではないが、やはり暇というのはどうにかして解消したいと思うわけであって。最初はヘビーアームズの所に行ったのだけれど彼は昼寝をしていて、次にデスサイズの所に行ったらあちらは取り込み中だった。ウイングとプロフェッサーが正座させられていたけれど、あの二人は今回は何をしたのだろう。
まぁ…そういうわけで、自然とナタクの所に来る事になるわけで。
…ここだけは、最終手段として出来るだけ避けていたというのに。
少しばかりげんなりとしつつ、目の前に広がる光景を見る。
ナタクと、老師Oが組み手をしている光景を。
そう。そうなのだ。基本的に、この二人は暇があると手合わせをしている。ナタクの成長はめざましいから、老師も教えがいがあるのだろう。事実、組み手を行っている二人は何だか楽しそうだし。
けれども、見学する方としては暇なことこの上ない。
暇を潰そうと訪れたのに、それでもやっぱり暇というのはどういうコトだろう。ぼんやりとそんなことを思いつつ、そろそろ帰らないと組み手に巻き込まれるかなと今までのパターンを辿ってみる。……あ、やっぱりそろそろか。
じゃあと、こっそりと逃げようと立ち上がった、その時。
くるんと、ナタクの顔がこちらを向いた。
「サンドロック、暇か?なら組み手に付き合え」
「…あぁうん、暇と言えば暇だけれど、丁度用事を思い出したような出してないような」
「つまり暇なんだろう」
「……まぁ、そうなんだけどさ」
困ったな、と頬を掻いて頭を回転させる。もちろん逃げる算段を考えつくために。とりあえず接近戦とか組み手とかは苦手ではないのだけれど、暇をそういう風に潰そうとは考えてなかったので。
「…ていうかね、僕らに組み手って意味有るの?ほら、今の僕らは人間の姿を取ってるけどさ、最終的には僕らの本体って操縦されるだけだし意味無いんじゃ」
「そうか?別にどうでも良いだろう?」
「…そう言われると反論しにくいなぁ」
苦笑をして、ナタクのいる方へと足を向ける。
仕方がないから、付き合ってやろうか。
(2009/08/02)
~異邦人~
「改めて思うけどさー、何で俺がお前らのトコの世話してんだろ」
「世話好きだからじゃないのか?」
「や、俺、世話好きってワケじゃ無いんだけど」
「世話好きじゃなくても世話焼きだからねー、君って。そのせいじゃないかな」
…その人達は、あまりに普通からかけ離れていた。
話の内容が、ではない。見目が、だ。
一人は年老いているわけでもないのに白髪で、一人は鮮やかな紅の瞳を持ち、一人は茶髪の中に所々緑色の髪が混ざっている。
その上、三人とも容姿が整っているから人々の目を引いていた。
「で、どうしよ。三つくらい買っとく?」
「そんなに要るものか?」
「念のために五つくらい買っておいた方が良いんじゃないかな。どこかの誰か達が何を間違ってか料理をしようとしたら、本当に大変なことになるから。予備は必要だよ」
「んじゃまー、そうしよっか」
「……」
黙ってしまった白髪の人を無視するような形で、残りの二人がフライパンを五つ、かごの中に入れた。
そう。ここは『ホームセンター』と呼ばれるような場所。
恐らく、あの三人が以上に人々の目を引くのは場所的な問題もあるのだろう。街中でも目立つだろうが、こんな場所に来たら尚更目立つ。果たしてそれにあの三人は気付いているのだろうかと疑問を覚えたが、気付いていようと気付いていまいと何も変わらないのではないかとも、思えた。
などとを思っている間にも、三人はさくさくと……途中少し買う買わないでもめてたりもしたけれど……買う物をかごの中に入れていった。
そうして少しして。
三人はこちらに来て、トン、とかごを私の目の前においた。
いつものようにそれらをレジに通して、私はいつものように金額を言った。
(2010/05/06)
~早朝に~
ふと、デスサイズが何かに気を取られているのに気付いて、ナタクは歩く速度を緩めた。
「どうかしたか?」
「え?いや…何か凄い人たちがいたっていうか?」
同じようにスピードを抑えた彼は首を傾げながら口を開いた。
「何だろ…外人?銀髪の長い人と…喋ってその人の頭撫でてる赤ん坊?…がいて…って、赤ん坊は見間違いだよな。いくらなんでも喋るわけ無いし」
「だろうな。しかし銀髪か…珍しいんだろうが、あまり珍しい感じはしないな」
「ま、真っ白な白髪さんや茶髪に緑が混じってたりがいるもんな、周りに」
この場にはいない二人の仲間の事を挙げて、彼は小さく欠伸をした。眠いらしい。
それはそうだろう。この時間帯、起きているのは自分と……良くてヘビーアームズくらいのものだ。いつもはもう少し遅く、それでも普通と比べると早い時間に起きる彼ではあったが、数時間単位の早起きは辛いだろう。
では何故今日、彼がここにいるのかといえば、それは単に興味のせいである。曰く『ナタクって朝、走ってるんだよな?付いて行っても良い?』ということで。
問題などあるわけがなかったので、普通にこちらも承諾したわけである。
もっとも、今は走る事を終えて歩いていたわけだけど。
「まぁ…珍しいといえば珍しいかもしれないが、俺たちがいえた事ではないということか」
「ん。…あ、そうそう、朝食買って帰ろ。そういや家に何も置いてないし」
「昨日は買い物に行かなかったのか?」
「行かなかった。ていうか、行く暇無かったんだよな」
「……?」
暇がなかった、という言葉に一体昨日は何があっただろうかと考えて、『それ』に思い至った時…ナタクは頬を引き攣らせた。
そういえば昨日…自分は色々あってとんでもない怪我をして帰って、それを彼が手当てして。一夜でもうだいぶ良くなったから気にも留めていなかったが、思い返すと間違いなく彼から買い物に行く時間を奪ったのは自分でしかない。
「…すまない」
「これからちゃんと気を付けてくれるんなら許しても良いけど」
「…あぁ」
気を付けても怪我はしそうだと思いながら頷くと、彼はそんな考えを見通しているかのようなため息を吐く。
「ホントに気を付けろよな…さ、買い物済ませてとっとと帰ろーか」
そう言った彼について、ナタクは二十四時間延々と開いている店に入った。
(2010/06/6)
~嘘予告:病院っぽく~
少年は医師に告げられた。
もう二度と、己の力で歩く事は出来ないのだと。
少年は医師に告げられた。
もう二度と、己の力で話す事は出来ないのだと。
その少年たちは、同じ病院に収容されていた。
ある日、話す事が出来ないと言われた少年は、ふらりと病院の中を歩いていた。意味など無く、ただただ直感と気分が指し示すままに、ひたすらに歩を進めていた。
そうして辿りついたのは歩く事が出来ないと言われた少年のいる病室。
彼以外の収容者がいない病室の中。
二人の少年は出会い、共に『永遠』を手にしてしまった物同士、互いの境遇に不思議な共感を抱く。
以来、話す事が出来ない少年は歩く事が出来ない少年のもとにたびたび訪れるようになり、少しずつ少しずつ、心の距離を近づけていく。
そんな日常にある日、可能性と言う名の一つ因子が入り込む。
それは声を失った少年が、声を取り戻す事が出来るかもしれないという可能性。
元通りの生活を取り戻せるかもしれないという事実を前に、少年は……
(2010/08/09)