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裂け目から出て辿り着いたのは、先ほどいた倉庫だった。
とん、とん、とん、と足が床に付く音を耳にしながら、ソーマが思うのは先ほどのこと。様子がおかしかった、アレルヤとハレルヤのことだった。
何だろう。あの少しの間だけの事なのに、何だか二人が遠い場所に行ってしまったような気がしてならない。とてつもない不安、というのが今の心情を最も良く表しているだろうか。何が起こったのかが把握しきれないのだ。
まだまだ混乱する頭で状況を把握しようとしても……やはり、そう上手くいく物ではなくて。グルグルと世界までもが回っているような気がして気が滅入る。
そんな時、唐突にアリオスが口を開いた。
「俺たちは別行動を取るぜ」
「何?」
「一応全員揃ったからな。テメェらと一緒にいる理由がねぇ」
グラハムの訝しげな表情を受けて理由を述べた彼は、行くぞ、と他の人形たちを促して歩き出した。
その後を慌てて追いかけるキュリオス、呆れた様子ながらも付いていくヴァーチェ、そのヴァーチェに杖の状態で(おそらく)意図的に引き摺られているセラヴィー、エクシアは人型状態に戻ったダブルオーと一緒に、ケルディムは欠伸をしながらで、そして、デュナメスは……追いかけようとして、ピタリと足を止めた。
それからくるりとこちらを見た。
「……突然悪い。俺たちも、ちょっと話し合わないといけない事ができたから」
「話し合わないといけないこと、ですか」
「俺たちの存在理由に関係することだから、あまり蔑ろには出来ない。可能な限り俺たちだけで話し合いたいし、時間も欲しい」
だから、とデュナメスは告げて、ケルディムの背を追いかけて行った。
残ったのは、人間と、異端と、魔族と。
「さーて……俺たちはどうする?夜も深いぜ?」
「私はお嬢様の所へ帰ろうと思いますが……」
「留美の事か?では、私とソーマとは宿に戻ることとしよう。アレルヤとハレルヤについての報告も必要だろうからな」
「ライルはどうしますか?」
「俺か?俺は……家に戻るかな」
家、そう言われて思い出す。そういえば、ソーマの実家は都にあるのだった。生まれは人間だが育ちは魔族である自分だから、そこは実家とは最早呼べないだろうし、そもそも呼ぶような気も起きないが。
そういうワケだから大して感慨も湧かない。ちょっとくらい見に行こうか、なんてことさえ思いもしない。あの場所は、ソーマにとっては完全なる『過去』で、無かったこととしても差し支えのない場所だった。それよりも、今の居場所の方が何倍も、何十倍も、何百倍も大切だ。
「そうですか……では、ロックオンによろしく言っておきましょう」
「いや……それはいい。俺のことは黙っておいてくれれば」
「何を言う!」
そう叫んだのはグラハムだった。
え?と視線をやると、彼はズビシ、とライルの方を指さしていた。
「良いか茨姫!弟妹という物は大切な物なのだ!それはもう…」
「グラハム、話は手短に、です」
「む……紅龍、そのくらいは私も分かっているぞ」
……それはどうだろう。
ソーマは心の底から思った。
「ともかくだ!私は君のことを眠り姫に伝えるぞ!弟妹の安否を知って困ることもないだろうからな」
「……お好きに」
そう答えたライルは、どこか諦観しているように見えた。