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この二人は欠陥品なのだと、そう言って果たして誰が信じてくれるだろうか。
多分、誰もが信じ、誰もが信じないだろう。
二人が揃っている場面を見る限りで、そこに『不完全』の三文字はない。片方だけでは偏りすぎている個性も二人揃えば綺麗に中和される。二人は、二人でいるときのみだが、美しく、完全と形容できる世界を造り出している。
突き詰めればこんなことは、人間であれ異端であれ魔族であれ月代であれ人形であれ、何であれ代わりはしない。一人では全て出来ないから他の存在の力を借りる。何もおかしいことはない。普通の、一般の、当たり前の光景にして思考だ。
だから、そこは関係ないのだ。その点で欠陥が見えようと、完全に思えようと関係はない。そこに判断材料となる要素はどこにもない。
自分が持ち出す根拠はもっと別のこと。
この二人は、きっと互いを殺せない。
それは自分たちにとっては完全なる欠陥だった。心を殺し、己を殺さなければならない場面でさえ、この二人は自分を殺せない。相手が相手を殺そうとしている場魔園に行き会ったとき、もう片方はそれを黙ってみていることが出来ない。
結果、どちらも己を殺さないままに存在する。
片方は自分たちの中では優しすぎる。
片方は自分たちの中では甘すぎる。
そして、その二人が互いに強い結びつきを持つ『対応型』であるのが問題なのだった。これでは誰も、二人揃わなければ欠陥の存在しない二人を、引き離すことなど出来はしないのだから。あぁ、全く、何でこんなこと。
どうして父はこんな二人を作ってしまったのだろう。
そもそも、人形は九体も必要なかったはずなのだ。一体、自分たちの『オリジナル』さえいればそれでよかったハズなのに。それだけで『世界を殺す』という目的は達成できるハズだった。彼女こそがそのために最初に生み出された存在で、その時恐らく父は別の何かを作る気がなかったから、だから彼女一人だけでも実行できるだけの力を、与えていた。
それを、どうしてわざわざ。
父のことは敬愛しているが、そこだけはどうしても解せない。
何も、彼女が『あんなこと』になるなど予測していたわけでもあるまいに、父は、まるで当然のように自分たちを作り出した。そこに迷いはなかったのだろうと、完成させられた自分たちを見て思う。この身に残っている残留思念に、後悔など存在しなかった。後悔などしていては、自分たちは作れなかったのかも知れない。
そういうわけだから、何らかの必要性があったのだと考えるべきだろう。自分たちは必要とされて今、ここにあると考えるべきだ。
だが、それでもあの二人だけは余計だった。
どこまでも感情で動く彼ら。その内一人はとても弱く見えて、彼が本気で嫌だと思えば他の誰もがきっと躊躇う。それだけの何かを、彼は持っている。弱いからと言って、それが強くない事に直結することもない。彼は非力であると見えるが故に強いのだ。
それでは困るというのに、そこを父も理解していただろうに。それでも、父は二人を含めて自分たちを作り出した。
かつて一度、父が生きているときに。自分は二人を『処分』すべきだと父に進言した。それは間違ってはいなかったと思っていたし、今でも割とそうすべきだったと思う。ただし、今から実行するには遅すぎるのだが。
自分を殺せなければ、自分と親しくなった者を殺せない。そう思う。
もしも自分を殺さないままに親しい誰かを殺すことが出来るなら。
それこそ本当に欠陥品だ。