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紅龍が家の方に返ったときにはもう夜も遅く、しかし、寝ているだろうかと思っていた留美はまだリビングで起きていた。起きていて、帰ってきた自分を見てホッとした表情を浮かべた。心配させてしまったらしい。
従者として、そして彼女は覚えていまいが……兄として、心配を掛けてしまったことを反省する。留美を守る立場として、それはあまりいただけない。
「お嬢様、ただ今帰りました」
「遅いわ。……何かあったの?」
「いえ、大した用事では」
「……そう」
さらりと告げた嘘に少し顔を曇らせたが、そこは気にしないことにしたのだろう、留美は別の話へと切り替えた。本当に……ここまで気を遣わせてしまったことに対して、酷く申し訳がない気持ちだった。
「先ほどまで、リボンズがいらしてましたの」
「リボンズ・アルマーク、ですか?」
「えぇ。大した話もなく帰っていったわ」
「そうですか……」
紅龍は彼女に気付かれない程度に顔を顰めた。あまり、自分はあの少年に対して良いイメージを持っているわけではない。留美にしたって完全に警戒を解いているわけではなく、単なる情報交換の相手としか見ていまいが。それでも、あまり彼にあって欲しくないという思いはある。
何となく、信用がおけないのだ。
そこに根拠を求められれば、きっと紅龍は言葉に詰まるだろう。理論でなく、感情で彼を信じ切ることは危険だと思っている。そして、そういった『勘』によって定められる価値観というのは、案外頼りになる。
そのお陰で今、自分たちはこうしていると言っても間違いではない。あの孤児院に入ったのも『ここならば大丈夫だろう』という『勘』があったからこそであり、そういった判断によって素晴らしい仲間……あるいは『家族』と形容できる存在を得ることが出来たのだ。それから……その後、この家に引き取らせたも、やはりあの孤児院にいたからこそ出来たことだったのだから。
思えば、出来すぎた関係を手に入れたと思っている。恐らく、あの孤児院にたメンバー全員が本気を出せば、結構な事が出来るのではないだろうか。
まず自分たち。というか留美。ここは財政担当だ。金は留美の手腕でいくらでも入る。……あぁ、自分もやっぱり入るか。彼女の付き添いでたくさんのパーティに出席したため、そういった世界の住人とは自分も付き合うことはある。
次にグラハムとカタギリ。あの狩人たちは人間だけでなく異端にも好かれている。交友関係はかなり広い。
ティエリアはあの知識量が売りか。紅龍が知らないことでも、彼が知っているということは、割とよくあることだ。
そして、アレルヤとハレルヤ。あの二人がいればとてつもない戦力になる。本気を出せば、あっと言う間に都なんて滅ぼすことが出来るだろう。
今思うと、なんて凄い知り合いばかりなのかと感嘆の息を吐きたくなる。
「ところで紅龍」
「何ですか、お嬢様?」
「お腹がすいたから何か作って頂戴」
「かしこまりました」
いつか、この繋がりを使うときが来るのかも知れないと思いながら。
とりあえず紅龍は、まずは留美のために夜食を作ることにした。