[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ちょっと遅くなりましたが。
みんな大変だった、ですよね、二十話。
胃がムカムカするというのは、こういうことを言うのだろうとダブルオーは思った。精神体であるが故に吐き出す物がないのが幸いか。もしも胃の中に何かあったら、間違いなく戻していただろう。
そのくらい、参っていた。
変な話。バカな話だ。
だって、今回殺したのはたったの一人だというのに。以前からもっと、もっと大勢の命を奪ってきたというのに、なのに、どうして今回は。
全く、ワケが分からない。
分からなすぎて、気持ち悪さが増すような気がした。
「…いっそ吐ければ気が楽になるのか…?」
「知らん。あと、気持ちが悪いのなら眠っておけ。効果があるかは知らんがな」
答えがないと思っていた呟きに応答があることに驚きながら、声がした方を見れば、そちらにいたのは赤い髪の同族。セラヴィー。
彼は腕を組んで格納庫入り口辺りで壁にもたれかかっていた。
「少し不安に思って来てみれば…お前の方がそうなっているとはな」
「…あぁ、アリオスを見に来たのか」
「その通りだ。……四年前、直ぐにいなくなったお前は知らないだろうが、あの後はかなり大変だったんだ」
四年前のあの後か、とダブルオーはかつてのことを思い出した。
同じ組織に属する人間たちが次々と消えていった、あの時。自分たちが残れたことですら奇跡であるように思えたあの、殲滅作戦。
「アレルヤのもう一つの人格が、その際に見られなくなったのは知っているか?」
「いいや」
首を振ると、いつの間にか傍まで歩み寄っていたセラヴィーはフッと目を閉じた。
「その時、アリオス…いや、四年前だからキュリオスか?ともかく、右半身が破壊されてな。戦闘が続けられ、終わる頃にはハレルヤはいなくなっていたというわけだ」
「…アリオスも、マイスターを失ったんだな」
その時のショックは……想像できる。自分だって刹那がいなくなってしまえば衝撃を受けるだろう。道具らしからぬ感情を抱くだろう。だが、仕方がないのだ。意志を持ってしまったのだから。仕方がないと諦めるしかないのだ。無い方が幸せだったなどと、ありもしない仮想現実を思っていても無駄なのだから。
ともかく、その時ハレルヤを失ったアリオスの様子は想像がつく。酷いパニック状態か、あるいはそれに近しい物だろう。アレルヤだけでも残ったのは幸いだったに違いない。
そして今回、傷ついたのは左半身。
「今度はアレルヤまで失う、そう思ったかもしれない、と」
「杞憂だと思えればいいのだが、現に精神体として機体の外に現れていないからな。不安はあるのだろう。そちらも気になるが……それよりも今はダブルオー、お前だ」
開かれたセラヴィーの目と、自分の目が合う。
「本来ならばケルディムの方が適正があるが、今回は俺で諦めろ。あちらもあちらで思うところがあるらしい。一人で勝手に考え込んでいる」
「一人で勝手に…」
いや、その表現は無いだろう。自分でさえそう思うというのに、目の前のセラヴィーといったらそれが当然という表情である。
今回ばかりはケルディムの気持ちが良く分かった。
彼自身のマイスターと、そして、その彼が愛したという女性と。
触れ合う直前までいったのに、女性は死んだ。
殺したのだ、自分が。
「アニュー・リターナーを殺したのは刹那・F・セイエイだ」
ふいに、セラヴィーが口を開いた。
そこから零れた断定の言葉に、ダブルオーは彼を凝視した。まるでこちらの考えが読まれているかのようなタイミングに驚いたのも事実だし、彼がこのようなことを言ったという事実にもまた驚いた。
驚愕に目を見開いている自分をチラリと一別して、セラヴィーは続ける。
「良いか?我々が道具であることを忘れるな。意志があろうと道具、感情を持とうと道具だ。そして道具というのは『使い手の延長線』だ。分かるか?道具が勝手に罪を犯すことはない。道具は使われてこそ罪を行う。その場合に罪に問われるのは何だ?道具ではなく、使い手だろう。全ては使い手次第なのだと言うことを、忘れるな」
正論。それは、自分たちの間では確かに正論として存在する論だった。
自分たちは実体化できる。そうすれば自分の手によって人間の世界に干渉することが出来るし、その場合は全ての責任がこちらへ来るだろう。道具ではなく一個の『存在』として、その時は行動しているのだから。
だが、今回は間違いなく『道具』として行動していた。
道具は罪に問われない。人を刺したナイフは凶器とされるが法で裁かれる事はない。それと同じ事なのだ。見せしめで破壊というのは有り得るだろうが、それは道具への断罪のための行動ではない。
そこは、分かっている。
「…それでも、この不快感は消えない」
「そうか。ならば好きに考えろ。俺はアリオスの方に行く」
あっさりとダブルオーのことを投げ捨てて遠のいていく背中を眺めつつ、ダブルオーは一つ気付いたことがあった。
そういえば、同じ組織にいた相手を殺すのは初めてなのだ。
ダブルオーも大変。ケルディムも、アリオスも。セラヴィーはまだ…大丈夫な方。
そんな感じの話だった気がしますよ…。