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 宿の一室でヨハンは一人、考え事をしていた。
 当然、どうして身なの記憶からとある一名が消えてしまったか、である。

 どうやら自分の弟妹たちには記憶があるらしい。沙慈とルイスには無く、何度確認してもロックオン、カタギリ、それから昨日からこちらに身を寄せているマリナ、シーリンにも無いのだという。

 刹那は帰ってこない。多分だが探し物の方に集中しているのだろうと結論づけた。集中しきっていて、帰宅時間を設定したという事実を忘れているのだろうと。

 そして、そこは良いのだが……残っているメンバーに言い訳をするのが大変だったのは、後で告げておくことにしよう。別に恨み言を言うつもりはないのだが、これだけは言っておきたいと思った、どうしても。

 そういえば、関する記憶がなくなっていくアレルヤだけでなく、ハレルヤ、ソーマ、グラハムも帰ってきていないのは何故だろうか。他のメンバーも心配していたのに。

 ……ともかく、である。
 ヨハンの方は、探し物の成果はなかった。
 しかし分かったことはある。

 当然といえば当然なのだが、アレルヤに関する記憶が消えてもアレルヤが残した物は消えないと言うことだ。

 ロックオンは例の白い弾丸。
 カタギリは例の黒い本。

 それを持って、自分の所に『覚えはないか』とやって来た。
 その時、どう反応すべきかと迷った事は仕方がなかったと思う。素直に「その弾丸はアレルヤが渡した物だろう」などと言っても、聞き入れてもらえるとは思えない。

 何せ、彼らにとって『アレルヤ』はいない存在なのだ。
 一片の欠片のような記憶でさえ、無いのだから。

 そして。
 そして、あまり関係ないがもう一つ。

「ヨハン…その、そろそろ出ても良いかな…?」
「あぁ、もうロックオンたちもいないから大丈夫だよ」
「そうかよ。ったく、ベッドの下とかどんだけ狭いんだよ」

 ひょこりと、ヨハンが腰掛けているベッドの下から現れた二つのオレンジの頭。
 キュリオスとアリオスと名乗った彼らは、人形なのだそうだ。にわかには信じられなかったのだが、今ではもう信じ切っている。少なくとも、彼らがそんな意味のない嘘を吐く相手ではないと分かったから。

 彼らはセラヴィーという同類を捜しているのだと言った。ばったり出くわし、その同類を見つけるまでは帰れないと言うアリオスとキュリオスと、しばらく一緒に行動して結局こうなった。人が来そうになったら直ぐにベッド下に隠れてもらったので、二人の姿は誰にも見つかっていない。同時に、彼らもロックオンたちを見ていないのだが。まぁ、だからといってどうというワケもないだろう。

「ごめんなさい、あまり人に会いたくないなんてワガママを言って…」
「いや、気にしなくても良い。どうやら君たちは普通ではないようだから、身を隠すのもおかしくはないよ」
「話が分かるな」

 ヒョイとベッドの上に飛び乗って、アリオスがニッと笑う。
 その後に上ってくるキュリオスに手を貸して、彼は言葉を続けた。

「互いに人探し頑張ろうぜ。んで、それが済むまでは一緒にいさせてもらうぜ」
「あぁ。構わない」
「じゃあ最初に一つ聞け」
「何だ?」
「朝飯もってこい。腹減った」

 至極真面目な顔で言われた言葉に、ヨハンは思わず吹き出した。

 

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