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アレルヤ指導の元、ティエリアとマリーが編み物をしている話です。
何か二人がライバルみたい…。
04.ふわふわ
「うん、そう……上手だね、マリー、ティエリア。二人とも初めてって言ってたけど本当?そうは思えないくらいに上手だよ?」
どこか嬉しそうに言うアレルヤに、ティエリアは眼鏡をクイと押し上げながら答えた。
「いや、間違いなく初めてだ。暇なときは本を読むかプログラミングをしていたからな。こんなことを以前にやっていたら否が応でも覚えている」
「……だよねぇ。それは何となく僕も分かった。じゃあ、マリーは?」
「私はお料理とかは一人暮らしが出来る程度にはなったけれど……こういうことはあまり必要じゃなかったから。というよりも…そうね、ソーマ・ピーリスは編み物なんて興味が無かったみたい」
こちらは微笑みを浮かべながら答えるマリー。
今、ティエリアたちは食堂へと来ていた。理由は簡単で、ここにある机が細長いからである。大きさも申し分なく、毛玉やら何やらを置いても支障はない。それに、編み物の先生と生徒が向かい合って座ることが出来るここは、ある意味ではこういったことに向いているのだ。
そういうわけなので、ティエリアとマリーは隣り合い、その向かいにアレルヤは座っている。ニコニコと微笑んでいるのはきっと、自分たち二人が並んでいて仲が良さそう、なんて思っているからだろう。
だが、アレルヤは知らないだけなのだ。机の下で、現在進行形でティエリアとマリーの蹴り対決が続いていることに。
ティエリアがマリーの左足を蹴れば、マリーは素早くその倍の痛さで蹴り返してくる。だからティエリアも倍で返し、マリーもまた倍で。先ほどからずっとその繰り返し……いや、正確に言うとついさっき、蹴りだけではなく踏みつけも入った。攻撃が少しだけ多様化したのだ。
が、やっていることは変わらない。
「……ッ」
ふと、編み棒を黙々と動かしていたマリーの手の動きが一瞬止まった。その一拍後に睨め付けられたが、ふいと視線をそらして知らぬふりをした。実際は自分が犯人で、彼女の足の小指を思い切り踏みつけただけなのだが。
顔には出さず、しかし心中ではフフンと得意げに笑っていると、ふいに襲ってきた痛みに棒を取り落としそうになる。マリーの逆襲である。
思わず見やれば、彼女は不敵な笑みを浮かべていた。
僅かな間、ティエリアとマリーの間を飛び交う火花。
「……二人とも?どうかした?」
「え、あ、いや…何でもない」
「え、えぇそうよ。何でもないわ」
「そう……?」
不思議そうな顔をして、それでも引き下がってくれたアレルヤに感謝しつつ、ティエリアは申し訳なく思った。だからといって事情説明をするわけにも行かないのだが。
何せコレは争奪戦なのである。
ルールは簡単。両者とも初めてである編み物を行い、どちらがより上手に作り出すことが出来るかを競うのだ。審判は、本人は知らないだろうがアレルヤ。選手は自分ことティエリアと、マリーの二人である。
そして、優勝者は明日、ずっとアレルヤと一緒にいる権利を持つ。敗退者は、出来る限り優勝者に接触の機会を譲る。
つまりはそういうこと。アレルヤは知らないままに司会にされ、景品にされていた。
そういうわけなので妨害工作は張り切っている。少しでも自分が勝つ可能性が上がるように、相手が負ける可能性を増やすために。机の下の足だけのケンカもどきは、その妨害工作の一旦だった。
「にしてもこの毛糸、とってもフワフワだね。誰が買ってきたの?」
「スメラギ・李・ノリエガが。安かったんだそうだ」
「そうなんだ…後で買ってきたお店を教えてもらおうかな…」
「あ、行くときは言ってね。私も一緒に行くわ」
「そう?ありがとう、マリー」
アレルヤに微笑まれ、とても幸せそうなマリー。
ちょっとイラッと来たので軽く足を蹴飛ばしてやれば、今度はこちらが思い切り足を踏まれた。しかも踵で。……地味に痛い。
ちょっと涙が出てきそうになったがグッと堪える。
「これならフンワリした手触りのマフラーが作れそうだね」
「まぁ、トレミーの中にいては使うような場面は訪れないだろうがな」
「確かにそうね……冷暖房完備だもの」
「でもほら、やっぱり出る可能性はあるんだし。それに」
「それに?」
「作るのって、楽しいでしょう?」
優しく笑むアレルヤに、ティエリアとマリーは少しだけ顔を見合わせて、再び前を向いて同時に頷いた。
何だかんだ言って微妙に仲良いティエリアとマリーでした。