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拍手再録です。



~雪が降ったので①~

「大人しくくらえッ!」
 ハレルヤの叫びと共に放たれた雪玉を辛うじて避け……後ろからの『ゴスッ』とも何とも形容しがたい固い音を聞いた。確か、自分の後ろの方には塀があったハズで、つまりはそれは雪玉と塀とが当たった瞬間の音であり……。
「ハレルヤ、お前雪玉の中に何入れてんだーっ!?」
「あぁ?んなもん石に決まってんじゃねぇか」
「決めるな!石なんて入れるな!」
「ならば金属片でも入れるべきか?」
「何も入れないのが普通なんだよ!」
 ティエリアまでハレルヤの肩を持つので、説得しなければならないライルとしてはかなり必死だった。放っておいたら本当に金属片が入った雪玉が飛んでくる。断言したって良い。行き過ぎれば刃物が入っている……なんてことも有り得そうだった。
 二人ともイライラしているのは分かる。どうしてイライラしているかと言えば、それはこの雪のせいだろう。雪が積もったせいで色々な予定をキャンセルするしかなくなり、その鬱憤を自分と兄とで晴らそうと、そういうワケだ。その結果、向こう側には自分と全く同じ顔が気絶して雪の上で伸びていたりする。……あれ、風邪引かないだろうか。このまま放っておいたら引きそうな気がする。その場合の看病って誰がするんだろう。
「てーかお前ら、どうせ暇なら家でゴロゴロしとけよな!俺はそうしたい!」
「このダメ男が!そのような無駄な時間の浪費をするぐらいなら我々の鬱憤晴らしの標的になっておけ!そっちの方が断然有意義だ!」
「んなワケあるかーっ!」
 何か微妙に怒られたが、怒られる内容が何とも言えない。やっぱり八つ当たりだ。
 二方向から雪玉の飛んでくるこの場をどうやって切り抜けようかと、ライルは雪玉を避けながら考えた。完全に命に関わる話なので、頭は普段では有り得ないほどにグルグルと回っている。オーバーヒートも無し。そんなので目を回している余裕はなかった。
 そして、考えた結果……二人を倒すことしかこの場を収める方法がないと結論づけた。いつも収めてくれるアレルヤは、こんな日でも仕事があった刹那の迎えに行っている。多分、ハレルヤのイライラはこれによるものも大きい。
 ライルは素速く足元から雪をすくい取り、さっと雪玉を作って振りかぶった。
 徹底抗戦の始まりだ。

(2009/03/14)


~雪が降ったので②~

 こんなものか、と雪かきをして集めた雪山を見て思う。これで何とか門のあたりから玄関までの道は確保できた。家に入るまでに滑って転ける、なんてことはとりあえず差し当たって心配することはない。
 が……何だか、折角集めたのにそのままというのも勿体ない気がする。
「……かまくらでも作ってみるか…?」
 呟いてみれば、それは存外悪い考えでも無いように思えた。この辺りでここまで雪が降るという事象が貴重なのだし、たまには良いだろう。というかたまにしか出来ないのだから、その貴重な時にやっておいた方が得な気がする。
 では、とスコップを持ち直したヨハンの耳に、弟妹の声が届く。
「ミハ兄、もっと大きいの作ろーよ!折角雪が降ったんだもん!」
「おっしゃぁ!やってやろうぜネーナ!」
「うんうんうんっ!で、どのくらいの大きさにする?」
「そうだな…隣の家のチビくらい?」
「刹那のこと?…りょーかいっ!じゃ、それが目標ね!」
 ミハエルとネーナの、そんな楽しげな会話に頬を緩ませつつ、ヨハンは作業を続行する。最初は雪かきを手伝わせるために外に出したというのに、いつの間にか二人は遊びの世界に入っていた。雪だるまを作るというのならまぁ、雪を除くという意味では雪かきの手伝いになるかと放っていたから当然だが。
 にしても隣の家。二人は騒いでいて気付いていないかも知れない……が、割と塀に近い場所にいるヨハンには固い物と固い物がぶつかるとき特有の音が聞こえていた。それから「くらえッ!」だの「本気で金属片は止めろーっ!」だの……何か修羅場っぽい。
 いつも止めに入るロックオンの声が無いことから、彼が外に出かけているかあるいは……気絶しているのだろうと推測された。出来れば前者であって欲しい。後者だったら止める人間が本気でいなくなる。
 だが。
「……まぁ、良いか」
 あれはあくまで隣の家の話だし。
 無干渉を決め込むことにして、ヨハンは作業を続けた。

(2009/03/14)


~雪が降る頃に~

 撮影スタジオから出て、刹那は空を見上げてと息を吐いた。白い。どうやら結構な寒さらしい。暖かい服装をしているので何とかそれを感じずに済んでいるが。家を出る前にカイロを持たせてくれたアレルヤのお陰だ。
 が……少々、困ったことになっているらしい。
 空から、白くてフワフワしているような気はするが実際はそうでなく、とてもとても冷たい氷の結晶……雪が降ってきたのだ。傘を持っていないというのに。
 雪なら、このまま突っ切って帰っても大丈夫だろうか。家は近いし。
 そう思ってさく、と積もった雪の中に出ていこうとして……見慣れた姿を視界の中に収めてピタリと止まる。
「……アレルヤ」
「あ、刹那。お仕事は終わった?今回は冬物の服の写真を撮る…だっけ」
「あぁ。…お前は?」
 何でここにいるのかと問えば、傘をさしていた彼はハイ、とたたまれたもう一本の傘を差しだした。
「これ、届けようと思ってね。ほら、刹那は傘持ってないでしょう?」
「確かに持っていないが……良いのか?」
「何が?」
「あの家に、あの三人+αをおいてきて」
 三人というのはハレルヤ、ティエリア、ライルの三名。αとはロックオンのことだ。
「その場合、あの三人をαが止められるとは思えないんだが」
「αって……普通にロックオンって呼んであげようよ…」
「どうせ今頃ハレルヤとティエリアに気絶させられているだろう…αで十分だ」
「……気絶は確かにしてそうだね」
 あはは、と軽く笑うアレルヤから傘を受け取って、刹那はアレルヤの傘の下に入った。
「……刹那ー?」
「こっちの方が楽だ」
「楽って……いや、まぁそうだけど」
「それに、お前は転けそうだからな。近くにいた方が安心する」
「信頼無いなぁ…僕」
 困ったように言うアレルヤがおかしくて、刹那は少し笑った。
 
(2009/03/14)

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