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久々すぎるW組っていうか天使と死神っていうか死神。
なんとなく二人の出会い編です。多分、まだそういうのは書いてなかったよう、な……?
思うに。
あの時、手を差し出したことが最大の失敗だったんだろう。
死神はそう呟いて息を吐く。
その日、世界はあんまりにも平和だった。
厄介な任務があるわけでもなく、気乗りしない仕事があるわけでもない。やっておいた方が良い作業も、見ておいた方が良い記録も、その日には存在しなかった。
本当の本当に、何をする必要も無い日。
そんなものを与えられても、正直困りものではあった。やるべきことがないという事は、つまり、やりたいことを探さなければならないという事でもあったから。あるいは、やりたくないことを探さなければならなかった、とも言えるのかもしれないが。
そんなこんなで考えた末、散歩に行こう、との結論が出た。理由は特にない。何となく、適当に、気分で決めた。
そして、動機がどうであれ何であれ、決まったのならば後は行動を起こすだけである。
部屋の戸締りなんかを確認して、何も持たずに外に出た。
とりあえず見上げて見た空は残念ながら青くはなかったが、曇天で覆われて真っ黒であるというわけでもない。むしろ日差しを幾分か和らげる役目を負ってくれていたので、完全に晴れ切っている状態よりも過ごし易いぐらいだった。
その事に少しばかり機嫌を良くして歩き始める、が。
数分後、聞こえてきた妙な音によって、その歩みはあっさりと止められてしまった。
首を傾げながら、音の聞こえてきた様な気がする方を向く。
聞き間違いでなければ、それは平和には全くそぐわない、嫌な音だった。悲鳴、なんてものではない。どぉぉん、と低く震える様に伝わってきたそれは、どう考えたって爆音でしかなかった。
どうしようかと、悩む事は無かった。
きっと、あんまりにも平和過ぎたから、それに毒されてしまっていたのだろう。爆音が聞こえたという事は何かが爆発したという事で、それに近づくという事が危険であるのは明白だったのに。そんな事をちらりと考えながらも、まぁ大丈夫だろうと思ってしまい。
足は自然と、音の聞こえてきた方へ向かっていく。
そこで、天使と出会った。
否、出会ったというのはおかしいかもしれない。彼は倒れたまま動かず、どうやら気絶しているらしかったから。彼の意識があってこちらを認識していれば、会う、と言っても良かったかもしれないのだが、そうでないこの状況下ではせいぜい、見付けた、としか形容できないだろう。
ともかく、そこに天使はいた。
ただし、何故だか黒焦げ立った。
彼の周りも焦げていることから、爆発したのは彼なのだろうと何となく察した。何で爆発したのか、ということは流石に分からなかった。周りには話を聞けそうな誰かがおらず、状況からしか過去を読み取ることは出来なかったからである。
しかし、さて。
これはどうするのが一番なのだろうかと、倒れている天使を見下ろしながら考えた。見なかったふりをすることも、彼が起きていない今ならばできるだろう。それ以外の事だって問題なく実行できるはずだ。では、この状況で自分は何をするべきなのかと。
何も見なかったことにして通り過ぎるのが、安全を考えれば最も良い考えである事は、まぁ、分かってはいた。理由は分からないが爆発してしまったような天使と関わることは、少しばかり危ない。誰かに爆破されたのであれ、自分から爆発したのであれ、彼は確かに焦げてしまっているのだから。
そして、爆発すれば普通は死ぬのだ。
幸い、彼は死んでいなかったが……そして、放っておいてもしなない事は一目見た瞬間から死神故に分かっていたが、彼が今、そういう状況に陥っているというのが問題だった。
その状況を見ただけでは、それが偶然なのか、はたまた日常的に見られる光景なのか、判断する事は出来ない。前者だったらまだ良いが、後者であれば救われない。関わることで彼が死ぬような光景を見ることになっては、その、困るのだ。知り合いを連れていくようなことには、出来る限りしたくはなかった。
だから、関わる前に去りたかった。
けれども、倒れている彼を見てしまった以上、それは選べなかった。放っておいても問題ないと分かっていても、気になってしまうのだ。
「……だれだ?」
悩んでいるうちに、天使が起きてしまった。
ゆるりと顔をこちら向けて、訝しげに声を上げる彼に、仕方がないので名乗りを上げた。
「死神」
「……迎えにでも来たのか?」
「いや、これは偶然」
「本当に?」
「本当、本当」
「……そうか」
ふむ、と呟いた天使は、体を動かそうとして、止まった。
眉間にしわを寄せる様を見て、あぁ、動けないのかと思った。同時に、そりゃそうなるだろう、とも思った。爆発したのだから、体が自由になる方がむしろおかしい。
そんな、起き上がることもできないらしい天使を見て、ついつい、
「大丈夫か?」
と、手を差し出してしまった自分は、きっと馬鹿だった。
それは、うっすらと出来つつあった縁を、まだ切り離すことは可能なレベルだった関係を、少しばかり強固にしてしまう行為だったから。
しかし、そんなことも考えられずに手はのばされ、あっさりとその手は握られた。
「あぁ、問題ない」
「問題ないなら自分で立てよな」
そんなやり取りの間に彼は立ちあがり、じぃ、とこちらを見た。
何だと首を傾げていると、彼は問いかけてきた。
「お前、名前は」
「そんなの訊いてどうすんの」
「別にどうもしない。ただ、気になっただけだ」
「……ふぅん」
そう、と。
呟いて、でも教えない、とでも言えば、あるいは未来は変わったのかもしれない。
「 」
けれどもついつい、流れに任せて答えてしまった。
どう考えてもそれは、その日の平和に毒され過ぎた行動だった。
つまり、今後に対する警戒心の一つも無い、愚かにも自分から失敗に向かう様な。
「 」
その後に告げられたのは、彼の名前だった。
勿論そんな事を彼は言わなかったが、それでもその単語の意味するところは理解出来た。
そして。
その瞬間になって、ようやく気付いた。自分の失敗に。
音を聞きつけやって来て、話して、起こすのを助けて、名前を教えて、教えられて。
どう考えてもこれらは、切り難い関わりを持ってしまう流れだった。
こんな、爆発して死んでしまいそうな天使と、へたをすると仲良くなってしまうような、そんな流れだった。
慌てて、今までのは無しだと、無茶だろうと何だろうと言い放とうとしたのだが。
それよりも早く、天使は言った。
「また会おうか、 」
それはきっと、失敗してしまった死神にとどめを刺すような、そんな一言だった。
何というか、私は良くキャラの皆様に散歩してもらってる気がする。でも散歩っていいよね。
というわけで、一人でいたい死神さんがうっかり平和に背中押されて失敗して、天使との縁を作ってしまうお話でした。ここで出来た縁は、たとえ死神さんがどれほどがんばろうとも天使が死守するので、というかそんなことしなくてもなんやかんやで普通に切れないので、どうしようもありません。
愚かにも失敗して、一人じゃない世界にどぼんと水没。