038:囚われの鳥
本体をいじくりまわされる時の不快感にも慣れた頃。
キュリオスは、ふらりと『自分』が収容されている基地の中を歩くようになった。
軍の人間とすれ違うこともあったが、そこは精神体の特権を駆使して事無きを得る。彼らからは自分が見えないと言う事はちょっとだけ悲しくはあるけれど、今回はそのお陰で自由に動き回れているのだから感謝しよう。
そんな事を思いながら、今日もふらふらと基地内を歩く。
「暇だなぁ……」
誰にも聞こえない呟きを零しながら進み、そして、その部屋に入ったのは……本当に偶然だった。
ドアを開けることなく、スイ、とそれを通り抜けて中に入ると、そこには。
「……うん、まぁ、娯楽も必要……だよね……?」
何故か映画館があった。
それにしても何で映画館なんだろう……なんて思いながら、ガラ空きの席の一つを選んで、ちょんと腰掛ける。
切られることなくずっと上映が続いているらしい映像を眺めるたった一人の客となったキュリオスは、酷く見やすく綺麗な映像を見上げた。
何かの映画だろうか。映画館だし。そんな風に思いながら映像を眺めていたのだけれど、何となくそうじゃ無い様な気がして目を細める。……何が違うんだろうか。
そんな疑問の答えは、しばらくすると直ぐに分かった。
「あ……これ」
一つに思い当たると、芋づる式に全ての事が思い浮かぶ。
流されている映像の正体は映画とかでは無くて、自分たちが介入した場所の姿だった。
介入前、介入直後、そして今。
何でこんな物を流しているのかとかは置いておいて、あまり人がいない理由は分かった気がする。こんなの、あまり見たいと思える様な物では無いのだろう。もっとも、自分だってあまり見たいとは思わないのだけれど。
もう良いか、と席を立って、出て行く前にもう一度映像を振り返る。
そこで見えたのはいつぞや破壊した機関の姿で。
娯楽にしてもそうじゃ無いにしても、こんなのを置いておく必要なんて無いのに。
苦笑しながらそう思って、外に出る。
その後ろで、今まで見ていた映像が途切れて別の、今度は本当の映画が流れ始めたのをキュリオスは知らない。
ぷちホラーというか、何と言うか。
何だったのだといわれると困りますが。まぁ、未来でもこんな話はあるでしょう、多分。