095:博愛主義
自分を作る人間が好きかと問われたら一人に対してのみ頷くだろうけど、人間全体が好きかと問われたら首を傾げるか首を振るかのどちらかだろうと思う。
そして、その全体には自身の操縦者候補も含まれた。首を横に振る方にしっかりと。
けれども。
今日という日はその回答が変化する、ちょっとした転機だった。
というのも、本日、自分の操縦者になるはずだった男が死んでしまったのである。銃で撃たれて、ばったりと。呆気ない程に、あっさりと。
別に感慨なんて無い。ただ、あぁ死んだな、と思うだけ。
彼に対する興味なんてこれっぽっちも無かったから、それもまた当然ではあろうと思いはするのだけれど。それでも何だか少し自分が薄情者である様な気がして、小さく息を吐いた。それが殺戮兵器たる自分のあるべき姿であるとは知っていたけれど。
死体が処理されて行くのを眺めながら、何かがおかしいと気付いたのは少し経ってから。
何がおかしいのかは、眺めていたら直ぐに分かった。
操縦者が死んだというならこれから色々と面倒なやりとりがあるはずで、今すぐここから立ち去って連絡を入れたりだの何だのしないといけないはずだと思う。けれども誰一人としてこの場から立ち去ろうという態度を見せない事に、どうやら自分は訝しさを覚えたらしかった。しかも何故だか、状況の隠蔽をはかっている様にも見える。
そういえばあの操縦者候補の姓は「 」だったかとぼんやりと思いながら、ならばなおさら『上』にでも伝えなければならないのではないかとも思い、考えることもないかと結論付けた。その辺りは自分を作っている御老体がどうとでもしてくれるだろう。こちらに不利にならない程度には。そう思うくらいには、自分は彼を信頼していた。
だから、本当に操縦者になるはずだった男の死が隠蔽されても、新しい操縦者が見知った顔であった事も、特に自分は気にしなかった。むしろ、こちらの方が良いくらいだと思ってさえいた。
そしてその思いがさらに強くなるのに時間はそれほど必要なく。
人間全体が好きかと言われたら首を傾げるか横に振るのは今でも変わらないかもしれないけれど、操縦者がそうかと言われたら首を振るくらいには、自分は今の操縦者が気に入っているらしかった。
作戦開始前の、ヘビーアームズの操縦者変更について。
トロワの方が真トロワよりも良いと思うんだ、やっぱり。