どうしてこんなヤツがここにいるのだろうと、雲雀はとても苛立たしく思いながら骸のことを見ていた。彼がここに来るというのは全然知らされていなかったのである。流石に何をするかは知らされていたのだが。
だいたい、だ。後でリボーンが相手をしてくれると言うからここに来てやったのに。群れる事はとにかく嫌だったが、一時の嫌悪感よりはその後の楽しみを取ったのは、もしかしたら間違いだったのかも知れない。
しかし、今思ったところでそれが充分に遅いことは目に見えて分かる。目の前にこの男がいるという点で既に。
今すぐにでも咬み殺してしまおうかとも考えたが、そうするとこの面倒なだけのアトラクションを終了させることが出来なくなってしまう。後で相手をしてもらうための条件として、この屋敷に入って出てくることが設定されているのである。
だから、今この時に戦い始めるのはタブーだった。
出来るなら…本当に出来るなら、今すぐにでも殴り倒してしまいたいのだが。
耐えると決めてここに来たのだし、まだ耐えきれないレベルではないからどうにか耐えきることにしよう。
全ては後の楽しみのため、だ。
苛々するのはこの際、仕方がないと言うことにする。
そう考えて、雲雀は煩い綱吉たちを置いて先にお化け屋敷に入ることにした。こういう面倒事は早急に終わらせてしまうに限るだろう。団体行動を義務づけられているわけではないのだから、一人で行って一人で出ようと問題はないはずだ。
だというのに。
「……何で君が付いてくるの」
「何を言っているんですか?雲雀恭弥、君が僕に付いてきてるんでしょう?」
「ついて行ってないよ。僕は僕で入っただけ」
「奇遇ですね、僕もですよ」
…入るとき、何故だか骸と一緒になってしまった。
言葉だけを素直に受け取るのなら、彼もまたさっさと終わらせて帰ろうと考えたのだと捉えることも出来る。実際、その要素も無いことはないのだろう。原理やら道理やらは分からないのだが、今の骸が『こちら』にいるにはかなりの労力がいるらしいから、あまり長い間はいることが出来ないそうだし。
だが、絶対にそれだけではない。
それを証明するかように、直ぐ隣を歩いている骸の口元には笑みが浮かんでいる。瞳にはおもしろがるような光。
つまり、だ。
彼は自分をからかって遊んでいるのである。
……本当に苛つく男だ。
置いて行くべく五割増しの早足で歩いている自分にピッタリ付いてくるところも、本当に苛つく。というか苛つく要素しかない。苛つく要素しかないというのは人間として全く持って出来ていないというか。今すぐここから立ち去ればいいのにと本気で思う。立ち去るどころでは生温いかも知れないけれど。
「何だか…随分と酷い事を考えられているような気がするのですが」
「気のせいじゃない?」
だってこのくらい普通で当たり前のことだろう。
ちらと視線を向けると、どこか釈然としないながらも納得をしようとしている骸の微妙な表情が見えて、ほんの少しだけ満足を覚える。
それでも、完全に満足したわけではないので苛立ちは消えなかった。
「ところで雲雀恭弥、君はどうして呼び出しに応じたのですか?」
「赤ん坊が後で相手をしてくれると言ったからね。そう言う君はどうせ暇でしょうがない暇人だったからなんだよね?」
「…恭弥君、今度膝を合わせて対話しませんか?君の中の僕と言う存在の姿を、改めて確認したいんですが…どうでしょう」
「やだよ。どうして僕がそんな事のために時間を割かないといけないわけ?」
そんなの、今以上に時間の無駄。
断るのは当然のことだった。
けれども、彼にはそうも言えないことらしい。
「そんなこと言わないでくれませんか?では、せめて君の中の僕に対する認識を改めて欲しいんですけれど、そのくらいは…」
「それこそ嫌だね。君のために行う行動は、僕にとっては殆どが無駄だから」
「酷っ!?…ん?ですが…殆ど、というのは?」
「戦ってるときくらいは君の存在理由を認めても良いと思ってるんだよ」
「あぁ…存在理由から否定されてるんですか、僕」
「だって嫌いだから」
嫌いな相手を嫌うことは、とても自然なことだと思うのだ。
「ていうか君、しつこい。咬み殺すよ」
「…はぁ、仕方有りませんか。ではさく、と済ませてしまいましょう」
「…上等」
雲雀は、隠していた武器をかまえて床を蹴った。
お化け屋敷が半壊する、実に三十秒前のことである。
そんな感じで崩壊が…手加減とかしませんか?