20.三つ葉のクローバー
「……なぁ、そろそろ帰らねぇ?」
「何を言っている。まだ肝心の物が見つかっていない」
「刹那の言う通りだ。我々はこのミッションを完遂させるまで帰還する気はない」
「早く見つかると良いねぇ、四つ葉」
「……お前ら、なぁ……」
四つ葉のクローバーが見つかるまでは何が何でも動かない、という様子の三名を見て、彼らの引率?役であるロックオンはため息を吐いた。さて、彼らを動かすには一体どうしたらいいのだろうか。
事の始まりは、自分の一言だった。
地上に四人そろったと言う事でどこかに出かけようと、そう三人に問いかけたのは覚えている。それで、ピクニックもどきを行う事になり、刹那とティエリアが大変面倒そうな顔をしていた事も、同様に。
それは想像していた事で、予想の範囲内だったから良いのだけれど。
……それがまさか、四つ葉捜索に発展するとは思わなかった。
全く、妙なところで一緒になって行動してくれるものだ。自分とは違って三人とも、どうやら特殊な幼少時代を送っていたようだから、多分その辺りが原因なのだと思うけれど。……だからといって真っ昼間から夕陽が沈みかけるこの時間まで、延々とクローバーの大群が存在するこの場所で地面に這い蹲ってて良いワケでもないだろう。
仲が良い事は良い事だと思うのだが……しかし、それにしたって。
「もっと別の、のほほんと出来る場所でやってくれないかねぇ……いや、今だって十分すぎる程穏やかだけどな……時間帯がちょっとな」
「何を一人でブツブツ呟いているんだ、ロックオン・ストラトス」
「いや、別に?」
「別に、で済む事なら喋らないでください。鬱陶しい」
「……」
「えっと……ロックオン、一緒に探しませんか?」
刹那とティエリアの合わせ技に意気を一気に消沈させられている所で、少し焦ったようなアレルヤの声が耳に届く。なんとかフォローしようとしてくれているらしい事が分かって、何だか涙が出てきそうだった。
自分に優しいのは本当に……彼くらいしかないのである。
もうちょっと二人ともキツさを減らしてくれないだろうかと思いつつ、ロックオンは誘いに応じてアレルヤの隣にしゃがみ込んだ。
そうして分かるのが、その場にあるのが三つ葉の大群であると言う事。
「……四つ葉、あるのか?」
「さぁ……でも、まだちょっと明るいですから探せますし、諦めるのは早いですよ?」
だから頑張りましょう、と微笑む彼を見て、もう何も言うまいと決めた。
……素直に四つ葉を探して三人に見せてやろう。
付け加えてそんな事を決意して、三つ葉の大群の細かな観察を開始する。
まぁ、だからといって、それは黙っておく理由にはならない。
適当に会話はしておこうと、隣にいる仲間に声をかける事にした。
「……ところでアレルヤ、お前は何で四つ葉が見たいんだ?」
「……四つ葉を見つけたら幸運が、とかいう話がありましたよね」
「ん?あぁ、そうだけど。何だ?幸運が欲しいのかよ?」
「そうですね……確かに、欲しくないと言ったらウソですけれど、僕は最後で良いですよ」
「へ?最後?」
「幸運になる十番が、です」
真剣な表情で三つ葉を漁りながら、彼は言う。
「もしも見つかったら……まずはハレルヤにあげたいです。いつも迷惑かけてますし。次は……貴方、かな」
「俺?」
「ロックオンにもお世話になってますから」
「……じゃあ、俺が見つけたらお前にやるよ」
「え?」
その言葉に、アレルヤはきょとんとした表情を浮かべた。何でそこで自分の名前が出てくるのかが分からない、と言わんばかりの表情である。
思わず苦笑して、ロックオンは言葉を次いだ。
「お前くらいのもんだしな、マイスターの中でツンツンせずに接してくれんの」
「でも…悪いですよ。ロックオンが見つけたらロックオンが持ってください」
「そんな事言うなら、お前だって自分が見つけた分くらい自分で持てって」
「僕は最後で良いんです」
「なら、俺だって最後で良いぜ?」
言うと、彼は少し不満そうな顔をした。
それが少しおかしくて、笑った。
幸福の押し付け合いっこしてる二人の話。
そしてロク兄からすると、この頃だとアレルヤは本当に貴重だろうなぁというか。初期のティエリアはすごかったしね。