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梅お題です。映画館に行きました。
12.隣の人
アレルヤは泣いていた。
悲しいのではない。嬉しいのでもない。感動しているのだ。
眼前に広がる大きなスクリーンに映るクライマックスの光景に心を動かされ、滂沱のごとく涙を流しながらも、片割れに感動を伝えようと言う努力だけは怠らない。
「本当によかっ……えぐっ……よか…よっ……良かった……」
『……もう良いとりあえずお前は喋んな。つーか泣き止め』
「えぐっ……うっ……うぅぅ……」
そんな事言われても無理だ。泣きを続行しながらアレルヤは思った。そんなに簡単に泣き止めたら苦労しない。あのシーンはそんなに安っぽい物ではなかったのだから。そして多分、それはハレルヤも認めているのだ。だって、彼は『こんなもんで泣くんじゃねぇよ』なんて言ったりしなかった。
やっぱりこの映画は偉大。それを改めて自分の中で確信したアレルヤは、どうしてハンカチを持って来なかったのかと、ただそれだけを悔んだ。そういう便利アイテムが無いせいで、今、溢れ続ける涙は腕や手の甲や手のひらでごしごしと擦っているから。おかげで服の裾はぐしゃぐしゃである。
そんな時、す、と横から差し出された手があった。
「……良かったかこれを……ぐすっ…使うと良い。僕はもう一枚…持っている」
そこにあったのはその存在を望みに望んでいたハンカチとか呼ばれる物で。
「あ、ありがとうございます!」
親切な隣人に礼を言いながら視線をそちらに向けて、次の瞬間、アレルヤは固まった。
「ティ……ティエリア……?」
「……アレルヤ!?」
どうやら相手もこちらに気付いたらしい。涙をふくためなのか眼鏡を取った顔を驚きで彩って、彼も自分の方を見た。
まさかの展開に、たがいにしばしの沈黙。
何を言うべきだろうかと考え込む事数秒、映画館のスピーカーから聞こえてきた音……否、台詞に、アレルヤとティエリアはほぼ同時に、巨大スクリーンの方に向き直った。
言うべき事を言う事さえ今は後回しだ。
今はこちらが最優先だと、二人は隣り合ったまま映画に再び集中した。
何の映画を見ているのでしょうか……。
そしてティエもアレも、当然ハレも、隣の人間が誰なのか気づいてなかったです。
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