「そういや、お前、音楽とか得意なんだってな」
「へ?どっから聞いたんだ、それ?」
「初代からだ。んでどうなんだよ」
「んーっとなぁ…まぁ、好きだけどな」
もう離れちまったから。
そう言って寂しげに、初代の雨は言った。
対して二世の雨はふぅんと適当な相づちを打ちながらも、とても音楽が好きだったのだろうと思った。剣を選び楽を捨てたことに対する、未練はないようだが名残はあるらしいとそれだけで分かるような表情を浮かべていたから。
「もうやんねぇのか?」
「楽器、全部売っちまったからな…こっちの楽器とは結構違うし、同じように出来るかは分かんねぇし」
「やんねぇんだな」
「楽器が手元にあったら、一曲くらい披露すんだけど…」
「ならば問題はない」
ばん、という盛大な扉を開く音と共に耳を打った声に、思わず雨二名は音のした方を振り返った。初代の方は純粋に彼の来訪を迎えるためだろうが、自分の場合はどうしてここにいるのだという疑問の方が強かった。確か、彼は二世に監禁されているのではなかったか。あまりに仕事に対する妨害が激しかったから、その対策として。
監禁に関わった身としては、彼がここにいるという事実はあまりに不思議で仕方がないことだった。ただし驚きはしない。もう慣れた。
右手に木で作られている細長い物を持ち、左腕には少しばかり巻き付いたままの鎖を監禁の名残として付けている初代は、そのままつかつかとこちらに寄ってきて、ずいと木製の何かを彼の雨に差し出した。
「お前の言う楽器というのはこれだろう?」
「…や、何でここにこれがあるんだ?これ、俺が売ったヤツじゃ…」
「探して見つけて買い取った。お前の国は島国だからな、探す範囲が狭くて助かったぞ」
大して誇るでもなく、その位できるのが当たり前だというように言う初代。
それに普通は難しいだろうと言ってやりたかったのだが、多分そう言うと疑問でもって返されるだろうと想像に難くなかったので言うのは止めた。この相手がボンゴレのボスの座を降りてもまだ影響力を持つ理由の一つはこれなのだろうと思いながら。
流石と感心する間に、今度は初代は自分の方を向いた。
「時に二世の」
「…何だ?」
「俺を監禁したいのならもっと厳重に鎖を巻かなければ無理だぞ?」
「……覚えとくぜ」
「しかし、二世も中々お茶目だな。監禁ごっこなど俺でも思いつかなかった」
「……」
いや、ごっこじゃなくて本気なんですけど。
言ったところで通じるワケでもないだろうと、二世の雨は酷い疲れを感じた。さっき感心を覚えた相手だったが、こうなるとその感心すら崩れていきそうになる。
それでも、最終的には信頼を無くすわけもなく、少しは持っている尊敬も消えない。
これだけでも、充分に初代は初代、だ。
そしてそんな初代はというと、とても楽しそうに彼の雨を見ていた。
「さぁ、久々だろう?吹いてみると良い」
「初代…俺、この笛、受け取れねーんだけど」
「あぁ、お前は音楽を捨てて剣を選んだんだから当然だな」
「いやちょっと待とうぜ!?分かってて渡すのかよ!」
「そうだな。捨てさせたのは俺だ。分かっていないわけがないだろう?ただな、」
そこでニヤリと笑って、彼は続けた。
「今だけ剣士を止めて、演奏が終わったら剣士に戻ればいい。その時には笛は俺が預かる」
「うわぁ…凄い無茶苦茶な」
「何とでも言え。久しぶりに聞きたくなったんだ」
それが本音か。
苦笑を浮かべる初代の雨に、その主はさぁと促した。
断れない空気、である。
ついつい、二世の雨は初代の雨の方をポン、と叩いていた。
「…お前、苦労すんな」
「アンタの方が苦労してんだろ?このくらい苦労でも何でもないぜ?俺は単なる初代の気まぐれに付き合ってるだけだし、俺も丁度演奏したい気分だったしな」
「そうなのか?」
「あぁ。折角だからアンタに聞いてもらっても良いかと思ってさ」
な?と笑みを浮かべて、初代の雨は笛らしいそれを持ち上げた。
「なぁ、初代。演奏するのは何が良い?」
「お前が最初に演奏してくれたあれが良い。どうだ?」
「あ、それ良いな。じゃあそうするぜ。お前はどうする?」
「どうも何も知らねぇから答えらんねぇよ」
さっさとやれと促すと、彼はくす、と笑って楽器を構えた。
…初代横暴。
ていうか、このシークレット・メモリーの設定で突っ切るのは色々無茶があると思うんだ。でも突っ切る。無駄に頑張ることにします。