生徒会は、意外と多忙だ。
しかし、そのわりにはメンバーが少ない。その上と言ってはなんだが、たまに仕事を放り出してしまうメンバーがいる。だから仕事が滞れば、滞った分だけ後に回されていく。彼ら四人が全員が本気を出せばあっという間に片付くというのに。
もっとも、仕事を滞らせているメンバーとて好きで滞らせているわけではないらしい。その時その時の優先事項が違うだけだそうで。
それでも、仕事が滞るのに代わりはない。
…だからこそ、自分がたまに手伝いに来る羽目になっているのだった。
「これさぁ、バイトか何かにするべきだと思うんだけどねぇ」
「言うな。同意はしてぇんだけどな、そうすると収拾がつかねぇだろ」
「その通りって言えばその通りだろうけど」
だからといって、無報酬でこの量を手伝うのは辛い物があるのだけれど。
自分って別にいい人キャラをしてるワケじゃないよね、などと思いながらもシャーペンやボールペンを持つ手を絶え間なく動かし、佐助は息を吐いた。
あぁ、全くどうして自分が手伝いなんて厄介事を。
厄介は、幸村のおもりだけで充分すぎるというのに。
「それは君がそう言うキャラだからじゃないのかい?」
「心の中読まないでちょーだい」
「失礼。読まなくても顔に書いてあったものだから」
「あ、そ」
にこやかに言葉を紡ぐ半兵衛にチラリと視線をやって、佐助は直ぐに書面にそれを戻した。下級生だからと言う気はないが、彼はもう少し人をからかう態度を改めた方が良い。軽く受け流す自分だからいいものの、別に相手に言ったらシャレにならないのではないだろうか、こういうの。
まぁ、相手を選んで言っている節もあるのだけど。
それで選ばれているような気はするのだけれど。
……正直嬉しくはない。嬉しいなんて言えるわけもなかった。
「そういや」
と、ペンを一旦置いて、政宗が顔を上げた。手を止めたのは、動かしすぎた手を休めようという意図からだろうか。
「浅井どうしたんだ?」
「あやつならば校内の悪を探しに行ったぞ」
「ha?またかよ?」
「ライフワークなのであろうよ。放っておけばいい」
「浅井君の見回りのお陰で、風紀も割と良くなってるから良いと言えばいいのだけれど……ところで毛利君」
「何ぞ?」
「この書類、どうしてサイン書いてくれてないの?」
ひら、と半兵衛が差し出したのは一枚の書類。ちょっとした学校の枠組みの変更についての紙だ。生徒会に回されるだけあって、変化はそれほど大した物でもない。だから元就がサインをすれば簡単に変わるような代物だ。
ちら、と覗き見るかぎり、その文面に問題があるとは思えない。それにサインをしたからと言って、問題はどこにもないだろうに。
だが。
元就は、広げていた扇子をパンッ、と閉じて、それをそのまま半兵衛の方に向けた。距離があるから当たるはずもないのだが、しかし勢いに押されてであろう、半兵衛は少しばかりたじろいだ。
そんな彼を、元就は目を細めて見る。
「竹中半兵衛、我にそのような愚案を承諾せよと申すか」
「愚案?これのどこがだい?」
「その様な表情を浮かべる者には、言うたところで分かるまい」
ひどく訝しげな表情を浮かべる半兵衛にそう言って、元就は扇子を口元を隠すように再び開いた。恐らく、隠れた口元は笑みでも浮かべているのだろう。
「ただ…それでも理由を聞きたいというのならば、分かりやすく言ってやろう」
「…」
「我がな」
そうして、再び片手で扇子を閉じ。
見えた口元にはやはり、笑み。
「我が、その案が気に入らぬのだ」
「…」
……。
……って。
「そんな理由!?」
「む。それ以外に何があるというのだ?」
思わず叫んだ佐助に、迷惑そうに眉を寄せて元就は答えた。
「他、などとは何を世迷い言を」
「いや、それ言ってな…」
「我一人を納得させられぬ案など愚案でしかない」
きっぱりと断言する元就に、佐助は肩を落とした。ダメだ。話なんざ聞いちゃいない。
暗いオーラを纏う自分の肩に、ふいにポンと置かれる政宗の手。
「な?こんなんで人員増やしたらえらいことだろ?」
「あぁそうだね…すっごく共感できるよ…」
毛利さんやりたい放題。
でもこうなりかねない様な気がする。
こんな状況で人員を増やす=厄介を増やす。ですからね。