『もしもし』
「もしもし、春奈。私よ」
『その声は……母さん、ですか?』
「えぇ。元気にしてるかしら」
『体長は幸い、崩してませんよ。咎音も元気そのものです』
「そう。それは良かったわ」
『……あの』
「どうかしたの?」
『いえ、私、母さんに電話番号を教えた記憶が無いんですけれど』
「あぁ、その事。調べてみたら偶然、『子』の中に貴方の学校の教師がいたものだから」
『……そう言う事ですか』
「不快だったかしら?」
『そんな事はないですよ。ただ、直に言ってくれたら是も非もなく教えたのにって思って』
「でしょうね。貴方、良い子だし。でも、少し驚かせたかったのよ。驚いたでしょう?」
『それはもう、驚きますよ。知らない番号から電話が、携帯にかかって来るんですから。取ろうかとるまいか悩みましたよ?』
「ふふふっ、それは悪かったわね。謝っておくわ」
『ですから、私は母さんに謝ってほしいわけじゃないんですけれど』
「分かってるわよ」
『……それで、母さんはどうして私に電話をしてきたんですか?』
「娘の声を聞きたくなったというのじゃ駄目なのかしら」
『だとしたら嬉しいですけれど、多分そうじゃないんでしょう?』
「半分正解で半分不正解ね。貴方の声を聞きたくなった、というのは実際あるもの。ちょっとばかり、貴方の現状が気になってね」
『その口ぶり、って……もしかして、母さんはだいたいの状況を知ってるんですか?』
「聞きかじってるだけだけど、ね。杏里には言っていないし、静雄にも言うつもりはないから、その辺りは心配しなくていいわ。まぁ……貴方自身は、こんな事は気にしないでしょうけれど」
『そうですね……確かに誰に知られようと気にはなりません』
「でしょう?」
『それで、残り半分の用事は何です?』
「お願い事」
『母さんが、私にですか?』
「えぇ。貴方に頼むのが一番いいでしょうし」
『何です?』
「折原臨也の事、よろしくね」
『え……っと? それはどういう事で?』
「彼が隙を見せたら容赦なく刃をねじ込んでやりなさい。隙を見せなくても、いつでも切り刻める準備をしておきなさい。もしもアイツが使い物にならなくなっても、いざとなれば『子』たちを総動員して貴方の愛しい人を探してあげるから、安心してやりなさい」
『あ、やっぱりそう言う事ですか』
「こういう事以外に何があるというの。……それで、返事は?」
『任せてください。折原臨也の事は、私も切ろうと思ってますし』
「ありがとう、春奈。例を言っておくわ」
『いえ、そんな……』
「そう言わずに、気持ちくらいは受け取っておきなさい」
『……はい』
「まぁ、とにかくそういう事だから、よろしくね」
『分かりました』
「じゃあ、体には気をつけなさいね」
『はい。母さんも気を付けてください。……それでは、また』
「えぇ、またね」
「……あれ、罪歌? 何で携帯なんて持ってるの?」
「私が携帯を持っているのっておかしいかしら」
「おかしいというか……持ってなかった、よね? 私もあげた記憶無いし……」
「買ってもらったのよ」
「誰に? ……まさか『子』に?」
「そんなことしないわよ。この間、知らない男が何故か知らないけれど私にと。……そういえば少し挙動不審だったわね、あの男。妙に表情も気持ち悪かったし」
「……警察呼ばなきゃ」
「必要無いわ。とりあえず切っておいたから、何も問題はないわ」
「……」
「あら、今日は『そんなの駄目』とか言わないのね」
「何と言うか……言い辛い、かな」
「ふぅん……?」
やっぱり罪歌が好きらしい。
そろそろシズちゃんの話も書きたいんだけれどね。