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 何コレ、とリジェネは息を吐いた。
 最悪ではない。相手はアイツでもあの人でもないから。
 けれど、多勢に無勢というのは自分が最も嫌いなパターンだ。何せ、自分で動かないといけない。人形二体はともかくとして、他の三名は正直に言うとどうだって良い。

 だって、見るからに普通の人間と異端なのだから。異端が都の中にいるのはリジェネにとっては常識なので何も思わないし、人間がいたところでそれは人間にとっても常識だから触れる必要もない箇所だ。

 まぁ、少し気になることはある。
 異端の二人…目の下の二つのほくろが特徴的なのと、赤い髪の少女の方に、全くと言って良い程にイトが付いていないことである。

 確か、都に存在する全ての存在に付くようにと力を発動させたはず、なのだけど。どうしてこの二人はイトが絡みついていないのか。
 これは、調べる必要があるかもしれない。

 けれど、今はそれよりも。
 リジェネはキュリオスとアリオスを眺め見た。
 まずはこの二人を再起不能にしなければ。

 剣を構えるアリオスと、銃を向けるキュリオスの動向を気にしながらも、リジェネはとんと横に浮いていた鏡に触れた。

「悪いけど人形たち、僕はちょっと用事があるから大人しく再起不能になってくれる?時間はあまり取りたくないんだ」

 小さく何枚にも分裂した鏡の中で笑みを浮かべ、すい、と人差し指を立てて向けた。
 キュリオスの方に。

「じゃあね、人形さん」
「キュリオスッ!」

 弾丸のように勢いよくキュリオスめがけて飛んでいく鏡たちとターゲットの間に、アリオスが剣を構えたまま飛び込む。全ての鏡を叩き落とすつもりだろうか。
 無駄なことなのに、とリジェネは同情した。
 それじゃあ間に合わない。

 小さな小さな鏡たちはその速度を増して、アリオスは激突間近の鏡を叩き落としていく。ここまでは彼の思い描いたとおり、だろう。
 だが、何も攻撃手段が鏡だけというワケではない。

 リジェネは一歩でアリオスとの間合いを詰め、驚きながらも行動を起こそうとしたが、鏡への反応に重点を置いていたために行動が遅れた、そんなアリオスの、人間で言うと丁度心臓があるような部分に、手を、ずぶりと。

 突き刺した。

「残念でした」
「かっ……は…」
「じゃあね」

 そうして心臓の部分にあった丸い、両手ですっぽりと覆えそうな大きさの球体を引きずり出し、ぽいと、もういらないとアリオスの体を放り出した。

 この透明な球体が人形たちを動かす『核』だ。詳しい事は知らないが、これから供給されるエネルギーで人形たちは動いている。半永久的に稼働を続ける電池のような物だと考えればいいこれは、確か……GNドライヴ、と呼ばれているのだったか。

「これで君は動けない……っていうか、人間で言うと死んだってこ…」

 笑いながら喋っていたリジェネの言葉が途切れた。途切れ、させられた。
 アリオスが刺された瞬間は呆然と立っていたキュリオスが、どんとタックルを食らわせてきたのだ。突然で、大人しいからと油断していた結果である。

 その弾みにころりと手からこぼれ落ちたアリオスの『核』を、キュリオスは素早く奪い取った。

 

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