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「あーあ…最悪」
「……キュリオス?」
「最悪ったら最悪だって……」
はぁ、と息を吐いてキュリオス…というらしい人形は立ち上がった。
その豹変した様子にロックオンは戸惑う。先ほどまで、ショックを受けて茫然自失の態度であったというのに、今ではその様子すらなく。
まるで、と、傷ついたヨハンと兄を支えるネーナを一瞥して、思う。
まるで。
まるで別人だ。
それはリジェネ、という敵も気付いたようで、訝しげに眉根を寄せてかの人形を見やっている。彼にとってもこの現状は想定外のことであって、同時に、これは彼が知っているキュリオスの姿ではないということを差していた。
自分たちの疑問の籠もった目を一身に受けつつ、しかし堪えた様子も気にする様子もなく、オレンジ色の人形はそこそこ長い前髪を掻き上げるような仕草をとった。
「最悪だよ、本当に。『私』が出てくるのはこの子じゃなくてホラ……もっと大きな子・のハズだったのに。それでも出せるところ、流石は『ガンダムシリーズ』ってとこ?」
「……君は…いや、貴方は、誰?」
一人称すら変わったキュリオスにリジェネは警戒心をむき出しにしていたが、それに視線をやることさえせずに、人形はヨハンの方を見て眉をしかめた。見たくない物を見た、というような反応だった。
それから溜息。
「うわ……『スローネ』…君もいたのね。いや、別にいたっておかしくはないんだけど……複雑。会いたくなかったのに……でもどうして三等分されてるの?」
「ちょっと!いきなり何言い出すのよアンタ!ヨハン兄は怪我してるのよ!」
あまりの反応にネーナがキュリオス……ではなく、最早それ以外の『何者か』と呼ぶべきだろう……にくってかかった。兄が負傷して苦しんでいるというのに、それに関心を払うでもなく適当に見やっている何者かに苛立つ気持ちは、ロックオンにも良く分かった。それ程までに何者かの態度は無関心だ。
自分たちのそんな反応に気付いたのか、何者かは少し考える素振りを見せ、あぁ、と手を打って納得したような面持ちになった。何かに思い至ったらしい。
「そっか。記憶は置いておいて、器の方は壊れるんだっけ。私の器が壊れない物だったから失念してたわ。ごめんね」
「何言って……」
「治療するから許して?」
ネーナの言葉を遮り、何者かは人差し指を立てた。
そしてその指で差したのは……ヨハンの、怪我の部分。
すると、貫通していた鏡がヨハンの傷口を通って再び外へ出る。出た後の傷痕は綺麗にふさがって、それどころか服の破れた部分すら消えていた。まるで、時間が巻き戻ったかのような、映像を逆再生されたかのような光景、だった。
「これ、は……」
「この子の能力は治療関連じゃなくて面倒だったけど……要は治れば良いんだもの。幸い、時間というのは私の専門分野だし、楽な仕事よ」
唖然としていると、得意げな何者かの声が耳を打った。
時間が専門分野、というのはつまり…時間が巻き戻ったようだ、という自分の感想はあながち間違っていなかったというわけだろうか。
「……アンタは一体…」
「私?私はね」
その時、何者かが浮かべた笑みを見て、ロックオンは初めて何者かが女性であることを知った。何故かは知らないが、笑みを見てそう思えたのだ……彼女、であると。
彼女、が何だかは知らないが。
「私はヴェーダというの」