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「…ヴェーダ、だって?」
「えぇ。私はヴェーダ。正確に言うと『ヴェーダ』と名付けられた鏡に保存されていた、そう呼ばれた存在の精神の具現、というべきかしら?」
『……そうなの?』
『えぇ、そうなの』
口ではリジェネにそうだと答え、心の中ではキュリオスに優しく頷いた。
別に、体を借りているからと言ってキュリオスの精神が消えたわけではないのだ。いわば、自分たちの状態は『共存』。もっと厳密に言うならば、自分は彼の体を仮宿として住み着いている客人、というところか。
といっても、この『客人』は主人の手によって追い出されることはない。追い出すことは出来ない、と言うべきかも知れない。
何故なら、彼らより自分の方が強いから。
強者が弱者に勝ち続けることが出来るとは一概に言えないが、それでも殆どの場合は強者は勝つ。それが『強者』たる由縁だからである。もしも負けたら、その時からその存在は強者では無くなるだろう。
生憎、自分はそんな事態を引き起こす気はまったくと言っていいほどに、無い。自分を倒すことが出来るのは、ずっと昔に一緒に暮らしていた『始祖』たちだけだと、己に誓っているのだから。
「さて……貴方は私の知っている『始祖』たちにそっくり、な気がするけれど別人ね。一体どんな存在なのか、ちょっと訊いてみても良いかしら?」
「…その『始祖』というのが何だか分からないけど」
相対していた『始祖』に近しい、零番目とも違うのであろう『誰か』は、こちらに警戒を向けながらも答えた。
「あの『世界』の事なら、僕はソイツに創り出された存在だ」
「……子供?」
「まさか!そんな事が事実になったら気持ちが悪くて仕方ないよ!」
「…『世界』という、それが誰かは理解しているけれど、酷い言われようね」
あの子がそこまで嫌われるような性格をしているとは思えないのだけれど、リジェネの様子から、何やらとんでもないことをしてしまったのだろうと、そういうことは読み取ることが出来た。双子の兄弟に対する思いが強すぎて、他にたまに意識が回らないのが彼の悪いところである。
今回も恐らくその悪癖が遺憾なく発揮されたのだろうと肩を竦め、心の中で不思議そうな表情でキョトンとしている体の持ち主に話し掛ける。もちろん、先ほどのように優しく。彼は『始祖』の一人に似ているから、この対応はそのせいもあるかもしれない。
『ねぇ、しばらくこの体を借りても良いかしら?』
『…アリオスを、安全なところに運んでくれるなら、良いよ』
『アリオスって、貴方の半身さんの事よね』
胸に穴を開けて足元に倒れ伏しているキュリオスそっくりの人形を思い、ヴェーダは頬に手を当て嘆息した。
『これ以上体に損傷が付かないようにってこと?別に良いけれど…それって意味ある?』
『無いのかも知れないけれど……けど、これ以上怪我してもらうのは嫌だから…』
『そう』
良い子だと思った。半身だからと言うのもあるだろうが、それでもこうやって死んだも同然の相手を思いやれるというのは、素晴らしい才能だ。
本当に、あの子そっくり。
『……分かったわ。善処してあげる。直し方も一緒に探すわ』
『…!ありがとう!』
『体を貸してもらうんだもの、このくらいは当然よ』
この体で、戦ったりすることもあるだろうし。
思いながら、ヴェーダはリジェネを見た。