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騒々しさに、顔を上げる。
何だろう、とても騒がしい。しかもその騒音に近い音はごくごく近くから聞こえてきている気がする、のだが。どうなのだろう。
マリナは首を傾げつつ、それでも動こうとは思わずにベッドの上に腰を下ろしたまま菓子をつまんでいた。少し前に某所から調達してきた品で、結構美味しいから気に入った。後で持ち主にどこで買ったのかを訊いておこう。
「ねぇ、シーリンも食べない?美味しいわよ?」
「……人様の菓子を勝手に取って、あまつさえ人に勧めることが出来る貴方が分からないわ、マリナ……」
「あら、このくらい普通だと思うけど?」
「そう思うのは貴方くらいの物でしょうね」
はぁ、と息を吐いてシーリンは視線をドアの方に向けた。彼女も騒々しさにはやはり気付いているらしく、どうやら酷く気になっているらしかった。彼女らしいことだと、マリナは何ともなく思う。
ただ、誰も何も言ってこないと言うことは、自分たちがここにいても何ら問題はないと言うことだろう。場合によっては出て行くことで状況は悪化するかもしれない。悪化するような状況がどんなものかは、流石に分かりかねるがそれはそれ、というものだろう。これはあくまで場合の話だ。
呼びにこれない場合というのもあろうが、そこまで考えたら何も出来ないからちょっと遠慮しよう。というか、そろそろ考えるのが面倒になってきた。
別に、考えるのを放棄しようとか思ってるワケじゃない。ただ単に、面倒なだけなのだ。やらなきゃならないときはちゃんと考えるが、今はそれではない……ような気がする。ならわざわざ考えてみる必要もないだろうし。
だからこうしているのだと、菓子をまた一つつまみながら思った。
一応、わきまえてはいるつもりだ、色々と。
「……貴方今、わきまえてるとか何とか思わなかった?」
「あら、どうして分かったの?エスパー?」
「顔を見ていたら分かります」
こてんと首を傾げると、はぁ、と吐かれるため息。
そうして、シーリンは眼鏡を押し上げて口を開いた。
「分を弁える人間が勝手に人の菓子を食べるとは思えないのだけど」
「シーリン、この世界にいる人型が何も人間だけというわけじゃないのよ?」
「分かってるわ!今の形容の仕方は言葉の綾!」
「そうなの?」
「そうなのよ!」
力強く小さく叫んで、シーリンはがくりと床に倒れ伏した。
……大丈夫だろうか。少し心配になったから、とりあえず話しかけてみることにしよう。返事がなかったら大丈夫でないと言うことだ。
「シーリン?」
「私……そろそろ疲れたわ」
返事があった、ということは大丈夫と言うことか。
何だ、と安堵して、マリナはクスリと笑った。
「疲れただけなのね?」
「誰のせいとは言わないけれどね…」
「誰のせい?刹那とか?」
「……」
途端に無言になったシーリンに、再び首を傾げた。
何だろう、何か変なことでも言っただろうか。
「シーリン?」
「…いえ、分かっていたわ、分かっていたことなのよ…でも複雑なだけ…」
「本当に大丈夫なの?」