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随分と間が開きましたが…まだ話は終わっていなかったのです。
そんな感じの話。とりあえずデスさんごめん。
そして何よりウイングごめん。
それは翌朝のこと。
その日は休みの日だったので寝坊をしていたサンドロックは、誰かの叫び声を聞いて目を覚ました。誰か……と言っても、誰の物かは直ぐに分かったけれど。何せ、とても長い付き合いをしているのだし。
ふぁ、と欠伸をして目をこすり、スリッパを履いて部屋を出る。
出て、向かったのは四人の同居人の内の、とある一人の部屋。
ノックもおざなりに、サンドロックはその部屋のドアノブを捻った。
「入るよー」
「ちょ待っ…」
「待たない」
中から聞こえてきた制止の声に耳を傾けず、ドアを押し開く。
そうして、見えた光景に少しだけ固まって……すぐにいつも通りになって首を傾げた。
「……クスリ、効かなかったの?」
「………………………………………………みたい」
呆然としている長い黒髪の少年……もとい、元・少年を見て、小さく溜息を一つ。まさか解毒剤?が効かないなんて、思いも寄らなかった。この状況を作り出した張本人は普段の行いがどうであれ、一応は立派に優れた科学者なのだから。
となると、今日が休日だったのは行幸だったかもしれない。
「で……どうする?ギャンはリビングに確保してあるハズだけど」
「………もう一度、解毒剤を作らせる。このまんまじゃいられないっていうかさぁ…」
「うん、確かにそうかもね」
それ程違和感はないものの、彼の精神衛生上、あまりこの状態が続くのは好ましくないだろう。性別変換なんて、罰ゲームでも遠慮したい事態だ。
ベッドから降りるデスサイズを待って、彼(今は彼女?)の準備が出来たのを確認してから、一緒にリビングへ向かう。多分、そろそろ別の誰かも起きているころだ。
そして案の定、そこには縄でグルグルに縛り上げられたギャン以外に、ナタクとウイングの姿があった。ヘビーアームズは寝坊中だろうか。昨日は遅くまで手品の練習をしていたようだし、もう少し起きて来ないかも知れない。
それはともかく。
サンドロックはデスサイズを見て驚いている二人の、その手前に転がしている化学教師の目の前に向かい、しゃがんで見下ろしながらニコリと笑った。
「昨日くれたクスリ、効かなかったみたいだけど」
「……そうなのか?」
「だからデスサイズもあのまま。……ねぇ、あのクスリが実は偽物の水だったってことは?もしもそうなら、今言えば肋の骨一本で許してあげるよ?」
「……私にとって幸いなことに、残念ながらあれは本物だ」
冷や汗を流しながら答える彼の様子には……嘘を吐いている感じはない。むしろ、そんなことをする余裕はなさそうだった。
だとしたら……と、立ち上がって視線を彼から外して考え込む。
ならば、この状況は何だろう。
「…偽物じゃなくて、クスリを間違えたって言うことは無い?」
「そんなウッカリとしたマネを私がする、と……」
「したんだね?」
だんだんと尻すぼみになる言葉に、確信を持って問いかける。
そうして、返ってきたのは首肯だった。
ギャンの返事をしっかりと見て、頷く。
「じゃあ、肋一本は止めて両腕って事で」
「増えているだと!?」
「いいじゃないか……意図的過失だったらそれに両足が付くんだよ?」
二分の一も減らしたのだから、これは大サービスなのではないだろうか。
笑いながら思い、怯えているギャンに首を傾げる。何でそこまで怯えているのだろう。このくらいは当たり前だと思うのだけれど。
少し気になったので背後をクルリと振り返ってみると、ウイングとデスサイズ、そしてナタク……三人とも顔を引きつらせていた。……これにはちょっと納得がいかない。
どうしてそんな顔をするのかと問い詰めたかったが、今はそれよりもこちらの事態の元凶たる彼だ。問いただすのだとしても、それは彼から詳細を聞き出した後にするべきだろう。優先順位はこちらが上である。
「何を飲ませたの?」
「おそらく……先に飲ませた薬の、症状を進行させるクスリだな」
「……というと?」
「説明するから縄を解いてくれ」
その方が分かり易いだろうと続けるギャンに、警戒心を抱きつつもサンドロックは言われたとおりに縄を解いた。状況は早い内に知っておいた方が良い。
自由になったギャンは、次に、ウイングとデスサイズを手招いた。
そして、素直に近付いた二人の内、ウイングの腕を取って。
その手を、クスリが効いたままである今は脂肪による膨らみを持つデスサイズの胸に、グイと押し付けた。
一瞬の間。
「…………………ッ!」
何とも形容しがたいその空気を破ったのは、声にならない叫び声を上げながらウイングとギャンを張り飛ばしたデスサイズだった。
耳まで真っ赤にして信じられない、と二人を見ている彼に同情しつつ、サンドロックは微かに感じた違和感に眉をひそめる。何か……今の光景の中で、何かがいつもと違うような気がする。いや、デスサイズに起こっているクスリによる後遺症の事ではなくて、もっと別の些細ながらも…という、そんな感じの。
考えても考えても分からないその答えだったが、意外と、それを見つけたのはナタクだった。
悩み込んでいた様な彼だったが、ポツリと、呟くように言ったのだ。
「…デスサイズ」
「なっ……何だっ?」
「思考が以前より女性のものに近くなってないか?」
「……………………………は?」
「…あぁ!そういうことか!」
ポカンとした面持ちで理解できないという様子のデスサイズとは逆に、サンドロックにはナタクの言った事が酷く良く分かった。
デスサイズは少年、つまり男性なワケであり、男が胸を触られたとしても恥ずかしがったりはしない。たとえ少女になってしまっても、中身が変わらないなら照れなんてどこにも無いだろう。
が、さっき……そして今も、デスサイズの顔は赤いまま。
それはつまり。
「思考の女性化……って、症状の進行って、そういうこと!?」
「いやいやいやいやいやいやいや、ちょっと待てっ!まだ決定したわけじゃないって!」
「ここまで来れば決定だろう。グーでなくパーで殴っていたしな」
そんな小さな事までもが女性っぽくなっている。
これはもう、確定と言うことでいいだろう。
気絶して倒れているウイングとギャンを眺めながら思い、そういえば、と思い至る。
他の、ギャンの試薬品の犠牲となった彼らに、解毒剤として渡したクスリは全て……彼が飲んでしまったものと同じなのだろうか。
だとしたら……それは……。
ようやく起きてきたヘビーアームズに事情の説明をする余裕など無くして、サンドロックは慌てて電話機の元へと走り寄っていた。
サンドロックの心配の…そのまさか…なんですよね。