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結局、ミハエルは部屋の方へ行かなかった。理由なんていくらでも。とりあえず一番は、止められたからだろう。というか止められたことしか行かなかった理由はない、と思う。
それ程までに彼らの引き留め方が強かったのかと言えばそうではない。しかし不安そうな目を向けられ、弱々しくだが自分を心配するような言葉を口にされ、あげく、もう一つの別方面からは正論をもって引き留められたらどうしようも無いだろう。片方片方片方だけなら良かったかもしれないのだが、それが三つ一気に来るのはきついという物で。
それに、ヨハンとネーナと、付け加えるとロックオンも行ったから問題は起きないだろうと、そういう思いもあった。自分の兄妹と、認めたくはないがあの狩人の実力は確証されているから。
だからといって部屋の様子が気にならないわけではないのだが。
むしろ、行かないからこそ気になるのだが。
それは仕方がない、というものだろう。
「ただ待つだけ、というのもあれだからね……ちょっと話し合ってみようか」
「何をだよ、ポニテ眼鏡」
「僕にはビリー・カタギリという名前があるんだけどなぁ…」
良いけどね、諦めてるから。
そうやって肩をすくめ、眼鏡の狩人は再度口を開いた。
「ソーマとか、ハレルヤとかの話だよ。刹那の事も」
「あれ?グラハムさんの話は?」
「あぁ、彼に関しては放置の方向で問題ないよ。自分勝手な行動なんていつもの事だ」
「へ……へぇ?」
「このくらいで狼狽えていては彼の相棒はつとまらないよ」
苦笑を浮かべるカタギリ。結構苦労しているらしい、彼は。
確かにそれはそうだろうと、ミハエルが思い浮かべるのは金髪の狩人。しかも笑顔で「やぁ!」とか言ってて歯が光る感じ。
実際にそんなところを見たことはないが、何か一回くらいはやってそうな気が。
訊けば恐らく真偽の程は分かるだろうが、あえてそれは尋ねないことにした。肯定の答えが返ってきそうでちょっと怖かったのである。
…話を戻して。
「アイツらならやっぱり、放っておいても問題ねーと思うけど?」
「みんなしっかりしてるから……僕も賛成です」
「……」
最後にルイスも頷いて、三票が『放っておく』に入った。
そんな自分たちに…というか自分に、カタギリはじゃあ、と言った。
「ミハエル、いないのがネーナだったらどうするんだい?」
「草の根分けても探し出す」
「……やっぱりか」
何を当然のことを、と思ったのに、相手が示したのは先ほどとは違う種類の苦笑だった。少し腹が立つのは気のせいではないだろう。
思わずナイフで斬りつけてやろうかと思ったが、実行はせずに言葉でかみついた。
「大切な妹なんだから当然のことだろ!」
「うんうん、君のその意見は何か分かるけど」
「分かるんならンな表情すんなよ!」
「ごめんごめん」
ごめんは一回じゃないのか。ていうか、二回続けて言われると舐められてる気が。
我慢はもう止めだと、ミハエルはさっとナイフに手を伸ばそうとして……がし、と手首を捕まれた。
正確に言うと、捕まれたと言うよりは手首に縋られた感じ。
視線をやれば、ちょっと泣きそうな沙慈。
「そっ……その、ケンカはいけないよ…?」
「……」
凄い平和主義。
思いながらも、ミハエルは黙ってナイフに伸ばした手を戻した。