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番外編・2
それから少しして、私は穏やかな方の来客と二人きりになった。もう一人はというと、お父様と話があるとかで部屋の方へ行ってしまった。とりあえず、お父様に無礼をはたらかないかが心配である。
「えっと…オーガンダム、だっけ」
「はい、何でしょう?」
ふいに話しかけられて、私はついと顔を上げた。呼ばれたからには恐らく、何か用事を言いつけられるのだろう。お父様との関係は単なる商売相手だったが、今まで訪れた多くの人々は私が『人形』であると聞くと、直ぐに召使いのように扱ったから。だからおそらく、彼だって。
しかし、そんな私の考えは違っていたらしい。
彼は困ったように笑っていた。
「そんな敬語なんて使わなくても良いよ?」
「いえ、これが私のいつもの喋り方ですから」
「本当?……あ、よかったらこれ、食べない?」
そう言って彼が差し出したのは、タルト。どこから出したのかと考えたが、それは直ぐに分かった。彼の傍の空気中にワケの分からない裂け目ができあがっていたのだ。推測しかできないが、そこから出したのだろう。
にしても。私は驚いていた。来客の中に、土産の品を私に渡すような相手はいなかった。そういう風に考えると、彼はとても希有な存在に思えた。もちろんお父様は除く。
「いただきます」
「味の保証は出来ないけれど、食べられなくはないと思うよ」
「いえ…そんな」
そんな、食べられる食べられないなんてどうでも良いのだ。こんな私にこういったものを差し出してくる、という事実があれば。
お父様には何度もやってもらったことではあるが、やはり他人にやられると感じが違う。気持ちの持ちようが違うと言うべきか、そういうことなのだった。
などと思いながらタルトを口へ運び、そして。
「……あの、」
「何?やっぱり美味しくなかった?」
「そうではなくてですね、もっと自信を持っても良いかと思います」
「え?」
「十分に美味しいです」
むしろ美味しすぎます。
私は心の中でそう付け加えた。
世辞抜きに、そのタルトは美味しかった。今まで食べたどんなタルトよりも。ちょっとした味覚の革命が行われたような気分である。
「すみません、是非とも作り方を教えていただきたいのですが」
「構わないけれど…今すぐでなくても良い?」
「大丈夫です。教えてくださるのなら。あぁ、あと…」
教えてくれる、という言葉で思い出した。
私は、真っ直ぐに彼を見た。
「貴方のことは、何と呼べばいいのでしょう?」
「…名前がないって言うのは言ったよね?」
「ですから、名前ではなくても良いので呼び方を」
このままでは酷く面倒なのだった。
どうだろうとジッと見ていると、彼ははぁとため息を吐いた。
「じゃあ、一番古くに呼ばれていた呼び方で」
「何と?」
「『王』」