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「ラグナ・ハーヴェイ様からのお手紙が来ておりますが…」
「適当に返事をしておいて頂戴。こちらは?」
「アレハンドロ・コーナー様から、次のパーティについての物です」
「そう。そちらは私が返事を書きますわ」
「分かりました」
留美は紅龍と共に諸々の片付けに取りかかっていた。
理由は他でもなく、近々開く自分主催のパーティのための時間を作るため、である。
本当ならば明日の夜にでも……などと思っていたのだが、何でかは不明だがやるべきが多数舞い込んできたために、時間という物がなくなってしまった。それでは当然パーティなど出来るわけもなく、今、こうやって手紙の返事に追われる時間を過ごすこととなった。
正直に言うと、あまりこういう仕事は好きではない。仕事というのは手紙の返事のことであって、それ以外は全く無いというのがポイントだろうか。しかし、この手紙のやり取りこそがかなり重要な事柄。
留美の家は代々の資産家。といっても自分は養女として迎えられたのだが……それは今はあまり関係のない話だろう。とにかく、自分が属し、統率しているこの家は代々の資産家なのだ。それが第一に来る。
代々、というからには様々な人間との交流もある。
それらは決して蔑ろにして良い物ではない。一つでも関係が崩れてしまえば、都の経済に大打撃を与えてしまうこともあるのである。
それはあまり好ましい事態ではないだろう。
だからこそ、手紙のやり取りという面倒すぎることも行う。
「紅龍、仕事はどのくらいで終わるかしら?」
「この調子ですと……早ければ明明後日にでしょうか」
「遅ければ?」
「一週間かと」
それは、と留美は表情を引きつらせた。
一週間の間、ずっと机に向かって手紙の返事を書き続ける、というのは。
正直、遠慮したい事態だった。
「……どうしてお父様はこんなにたくさんの知り合いを持たれていたのかしら……」
「祖父の代からの付き合いもあるようですが」
「どちらにしても、ですわ」
全く、嫌な誤算だ。
留美は小さく息を吐いた。
この家に養女として取られたのは偶然ではなく、こちらでどうにかそう仕向けたが故の結果だ。幼い頃、孤児院で平和に過ごしていたときから、留美は力を欲していたのである。
裏からでも、都に影響をもたらすことが出来る力を。
どうしてなのか、その思いの理由は全く見当が付かない。けれども気付いたときにはそれを欲しがる心がそこにあったのだ。
「少しくらい付き合いを減らすことが出来れば楽なのですけれど…」
「そうしますと色々と噂が立つかと思いますが」
「えぇ分かっていますとも!ですから大人しくしているのです!」
噂というのは怖い。こういう世界では噂によって自分の評価が決まってしまうから尚更に。その評価を決める噂という物が一人歩きをしてしまうものだから、本当にこちらとしては対応に困るのだ。
そんなことも関係なく、噂は一人で勝手に大きくなるのだけれど。
迷惑なことこの上ない。
「…疲れましたわ。紅龍、紅茶でも淹れてくださらない?」
「かしこまりました、お嬢様。それと…」
「…?」
「お疲れ様です」
「……本当に、その通りですわ」