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絵の具自体が関係してるわけでなくて、ちょっとした比喩というか。
そんな感じの話になりました。
08.乾いた絵の具
「アレルヤ、どこにいたの?探しても見つからなかったんだけれど」
「ちょっとシミュレーションをね」
「シミュレーション?」
その答えに成る程、と思うと同時に訝しさを覚えた。何で、今になってそんな物。確かにアレルヤはまじめだし、そういうことを自主的に行うだろう事は分かっているけれど……けど、最近ちょっと頑張りすぎじゃないかと思う。
超兵だといっても、やはり疲れは溜まる。もう少しくらい休んでも良いだろうに。
心配に思う気持ちを外に出しすぎたのか、どうやらソレに気付いたらしいアレルヤが柔らかく微笑んで口を開いた。
「大丈夫だよ、マリー。ちゃんと休むから」
「なら良いけれど…」
「不安?」
「えぇ。貴方って、そうと決めたらとことん突き進む時があるんだもの。私から見たら……油断も隙もないって、こういう事を言うんだって分かる良い例よ、貴方」
「そうかなぁ……」
腕を組んで首を傾げるアレルヤにはどうやら自覚は無いようだけれど、実際彼はそんな感じだ。いつもはそこまで自分の意見を押し出したりはしなくても、ここぞという譲れないときには徹底抗戦も辞さない。
それがアレルヤだ。……最も、その『徹底抗戦』はそう滅多に出てこないし、出てくるとしても相手を選ぶ場合が多いから見ることは少ないが。
二人で並んで食堂への道を進み、マリーは改めてアレルヤを見た。
「でも、本当にどうして最近、そんなにシミュレーションをしているの?」
「え?」
「アレルヤ、暇があったらいつも消えるんだもの」
それは、消えているときはシミュレーションをしているからだろうと、彼の答えを聞けば簡単に推測できる。それ以外に、答えなんて見つからないくらいに。
どうなの?と視線で問うと、彼は僅かに困った様子で微笑んだ。
「言わなきゃダメ?」
「出来ればお願い」
「……どうしても?」
「そうね。支障がないのなら聞きたいわ」
「…じゃあ、言うね。ちょっと恥ずかしいけど」
「構わないわ」
「足手まといは嫌だから」
ぽつんと、その言葉は落とされた。
思わず、再度問いかけるような視線を送ると、彼は苦笑を浮かべ手続きを口にした。
「四年前と今とじゃ、間違いなく今の方が機体の性能は良いよ。けれど、四年前と今とじゃ……間違いなく、僕の腕は落ちているから。このままじゃ、僕は本当に使い物にならない単なる足手まといになるかもしれない」
「…それは」
その言葉に、マリーは何と反応すべきかと迷った。何せ、四年間の拘束は自分が属していた連邦が行っていたことだし、腕が落ちたことに関しては脳量子波を使えなくなったことが少なからず影響しているに違いない。
どちらも、自分に深く関わっていることだ。
だから…何も言えない。
言ってはいけない。それに、謝罪なんてアレルヤは求めないだろう。謝りでもしたら、彼はまた困ったように笑って事をぼかすのだ。今だって、別にマリー自身を責めるわけでもなく、事実を単に述べているだけなのだし。それに、自分が話して欲しいなんて言わなければ、彼はこんなことを口にはしなかった。
僅かな罪悪感。
けれどそれを払拭するかのように、穏やかな笑みが降ってきた。
「それにね、今は頑張る理由があるから」
「理由…?」
「守りたい物が増えると、人はこんなに頑張れるんだね、マリー」
その笑顔が。
その言葉が。
その全てが、とても、眩しいと思えた。
アレルヤは、機関から逃亡してからとても大変な生活を送ってきたと思う。五感がなかった自分と違って、機関にいたときは機関にいたからこその嫌な目にもあっただろうし、目にしてきただろうと思う。
なのに、こんなことを言える彼が。
感謝します、神よ……マリーは、口の中で呟いた。
彼が自分のことを無能だなんて思わないようになればいいのに。それを思っているのなら、その考えを消すのが自分であったらいいのに。
けれどそれはきっと無理だ。一抹の寂しさを抱きながら思う。
自分には、彼の能力を取り戻してあげるための力はないから。
残念だけれど、それが事実なのだ。
乾いた絵の具があったところで、何の意味もない。
…そんな考えから。本当に比喩ですね。水性絵の具なら水を差したら少しは使えるかもしれませんが、残念なことにその『水』はマリーではないのだ、ということです。
解説がないと題との関連性が分からない話…だなぁこれは。