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あら、とアニューは顔を上げた。
新しい気配が家の中に現れたのを感じたのだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、ちょっと思い出したことがあって…行っても?」
「お構いなく…私たちの方が世話になっている身です」
「ありがとう」
二言三言と言葉を交わしたソーマに微笑んで、ガタリと音を立てながら席を立つ。グラハムの方はソーマに全てを任せている様子だから断ることもないだろうし、デヴァインは呆れのあまりか部屋にこもってしまった。ちょっと悪いことをしたかもしれない。
後で、デヴァインにも何か持って行ってやるべきだろうか……食べ物とか。そういえば、彼は客人を迎えて直ぐに部屋にこもってしまったがために昼食を取っていないのである。さぞかしお腹もすいていることだろう。
そんなことを思いながら、アニューは気配を感じた方へと足を向けた。この屋敷内全ては自分の能力の及ぶ場所。普通なら分からないような小さな気配でも、この屋敷を限定するのならばアニューには分かるのだ。
自分はあくまで後衛。そして後衛にも色々な種類があるのだ。
回復をしたり、食事を作ったり、住居の片付けをしたり。
あと、その住居を守ってみたり、と。
何だかんだと言って、後衛が実は一番大変なのではないだろうか。結構多芸でないと、一人でどうにかすることなんて、とても出来はしない。
こう言うとき、月代の能力は本当にありがたい。
考え事をしている間に辿り着いた部屋の前で、アニューは立ち止まって中の気配を伺った。……やっぱりいる、ようだ。
しかしこの部屋に誰が何の用が。確か、ここには誰にも教えていないが意識不明のどなたかの体が仮置きされているのだけれど。
とりあえず最低限の礼儀、と数回ノックをして、それからガチャリとドアを開ける。
「誰かいるの…?」
「……アニューかい?」
「あら、リジェネ」
そこにいたのはニコリと笑っている、滅多に姿を見せない……というか、仲間に存在自体を知られていない同胞だった。
リジェネ。どうやら彼のことをリボンズは知っているようなのだけれど、彼からリジェネに関する話が回ってきたことはない。ということは彼は自分がリジェネのことを知っているとも知らず、付け加えるとリジェネのことを隠していると言うことだ。
ならば、あえて何も言わないでおこうとアニューは思う。時期が来れば教えてくれると思うし、リジェネの方からも口止めはなされている。
「久しいけれど…どうかした?」
「何かね、戦闘中に色々あって気付いたらここに」
「へぇ…戦闘って、そういうこともあるのね」
あまり戦闘に出たことはないから分からないけれど、成る程、そういうこともあったりするのか。同胞などから聞いて初めて分かる事実だ。
それを直に自分で知ることはないのだろうと思いながら、ベッドの上をちらりと確認する。……ちゃんと、誰かさんは寝ていた。
「良かったら少し休んでいく?昼食くらいなら作るわ」
「是非ともお願いしたいね。お腹がすいて仕方ないから」
「じゃあ……私の部屋に移ってくれないかしら。一応、その人はここに置いておく方向で対応は決めているの。ここにいては構ってしまうわ」
構わないでしょう?と言うと、苦笑が返ってきた。
それを肯定と受け取って、アニューはドアをもう少し開いた。