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ちょっと面倒な相手に捕まったような気が、しなくもない。
大人しくアニューの後を歩いてついて行きながらも、リジェネは気付かれないようにこっそりとため息を吐いた。
本当は、黙って彼を連れて行こうかと思っていたのだけれど。さて行動を起こそうか、というところで彼女がやって来てしまったのである。そういえばこの家は彼女のテリトリーだったと、気付いたときにはもう遅かったのである。
さすがは月代の後衛を完全に任され切っている女性だと、いっそ感嘆するくらいだ。一応であれども敵でなくて良かった、という思いもある。
アニューはきっと、守りにおいては誰の追随も許さないだろう。
それこそが彼女の強みだから。
こんな相手だから、恐らく自分は発見されてしまったのだろう。その点は既に諦めたし、誰にも言わないで欲しいというこちらの意思も尊重してくれているようだから……今は大事にならない事が救いと言えば、救い。
「そういえばリジェネ、サンドイッチに挟む物は何が良いかしら?」
「何でも良いよ。適当に作ってくれるかい?」
「分かったわ。あぁ、でも」
「…?」
アニューが彼女の部屋の扉を開ける前、こちらを見て少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。…一体何だろう。
「サンドイッチなら、部屋に作り置きがあるの……それでも良いかしら?」
「……何でまた、そんな物が」
「夜食にちょっと…ね。あ、太るからどうしようかとは思ったのよ?」
慌てて付け加えられる言葉に、リジェネは分かったよと苦笑を浮かべて、彼女を追い越して部屋の中へと入った。自分の存在は秘密と伝えて以来、この場所がこの屋敷に来た自分の避難?場所となっているから、たとえ異性の部屋であろうと気にすることなく入ることが出来る。慣れっこだ。
実際、アニューの方も気にはしていない様子で、部屋に入ったら何とも思っていない様子でドアを閉めた。こちらも慣れっこ、なのである。
きっとリヴァイヴ辺りに見られたら大事になるだろうなぁと、今は管制室っぽいところにいるはずの月代を思う。彼のアニューに対する愛着というか……過保護っぷりは、たまに目に余る物がある。だからといって何も言えないが。何故なら、自分のことは彼らにはまだ隠しておきたいから。
そんな状態の自分でも他の月代たちの事を知っているのは他でもなく、自分の方からならいくらでも彼らの様子を見ることが出来るからだ。
何気にこの立場は役に立つ。
主に、彼らの観察って言う意味で。
「えぇと……あ、あった。これよ」
「野菜物が多いね。あ、でも卵もちゃんとある」
「野菜が多いのは夜食だから一応ね……気にはしたのよ」
「カロリー的な意味で?あまり意味無いと思うけど」
「分かってるわよ…」
分かっていてなおも作ったのは、やはり食べたかったからだろうか。そういう欲は中々押さえることも出来ないし……気持ちは分からなくもない。我慢なんて、時と場合さえ観賞してこなければ面倒以外の何者でもないだろう。
「けど、それが今役に立っているんだもの。良いじゃない」
「そういう話かなぁ…これ」
「そういう話にして欲しいの」
「……別に良いけどね」
言いふらす相手もいないことだし、聞いてやっても良いだろう。
こくりと頷くと、安心したような笑みが向けられた。