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いや、まさかここまで貧乏だとは思ってはいませんが。
…どうだろうな、有り得そうな気もしてきたな。
06.中古品
「……これ、本当に私が着ても良いの?」
「そうよ、マリナ。貴方が着るの」
「私が……これを…」
キラキラと光っているような目でその白い服を見つめ、ウットリとしているアザディスタン第一皇女を見て、それを当たり前のように受け入れてしまっているシーリンを見て、クラウスははてと首を傾げた。
アザディスタンは傾いている国だとはいえ、そこの国主である彼女である。服なんて、物は数は少なかろうがある程度上等な物を持っているはずである。こんな、今彼女に渡したような物よりも上等な物、を。
だというのに、果たしてこの喜び用は何だというのだろうか。
クラウスのそんな疑問に気付かないままに、アザディスタン出身の二人の女性の話は続いていく。
ついに涙ぐみまで始めたマリナは、服をギュッと抱きしめてシーリンへ微笑みかけた。
「ありがとう、シーリン。私……一体、なんと言ったら良いか…」
「良いのよマリナ、このくらいは私にもさせて頂戴。いくらアザディスタンのためとはいえ……国をあけて貴方に負担をかけているのは事実だわ」
「シーリン…っ…」
「今くらい、ゆっくりとしなさい」
「えぇ…えぇ、えぇ…!」
感涙までもを流しかねないマリナの様子に何とも言えない思いを抱きつつ、それでも気にはなったので……結局、クラウスは二人に向けて問いを発していた。
「…すまない」
「あら、クラウスどうかしたの?」
「一つ訊きたいんだが」
「何でしょう?」
シーリンとマリナの視線を受け、それから口を開く。
「…どうして、服一着にそこまで感動しているんだ?」
「…え?」
「マリナ姫は皇女だったはず…だが」
「……あぁ、成る程」
キョトンとしているマリナはともかくと、シーリンの方はなにやら思い至ったらしい、分かった、というような表情をしていた。
「つまり、貴方はアザディスタン皇女の実情を知らないのね」
「実情……?」
それは一体。
訝しげに眉を寄せていると、だからね、とシーリンは続けて言った。
「今までマリナが着ていた民族衣装のあの服、あったでしょう」
「あぁ、それは覚えているよ」
テレビなどで彼女が出てくるとき、基本的に彼女はスーツか民族衣装を身に纏っていた。よく見た方は民族衣装だろうか。
「…それがどうかしたのか?」
「あの服、中古品なの」
「………………は?」
「流石にスーツで中古は諦めたわ。あれは諸外国を回るときにも着用するから、仕方なしに新品を買ったの」
「でもね、シーリンったら仕事の時以外は着てはいけないって言うのよ?」
「当然でしょう。そういう服よ、あれは」
不満そうなマリナの表情に、呆れかえったシーリンの様子。
それらに構う余裕は、実はクラウスの方にはなかったりする。
……まさか、皇女と呼ばれる人がそんな事態に巻き込まれていたとは。たやすく、想像出来ることではなかった。常識的に見て殆ど有り得ないような気もする。
だが、有り得ると二人は言うのだ。シーリンはこういう嘘は言わないから信じても良いだろうし……ということは、本当にマリナの民族衣装は中古品。もしかしたらシーリンの着ていたという服の方も中古なのか。
呆然としているこちらに既に注意は向けず、マリナとシーリンは再び二人で話していた。そこはやはり同胞だから、つもる話もあるのだろうと…余裕があれば、思えたかもしれないが、生憎と今は思えない。
「シーリン、本当に良いのよね?返さなくっても良いのね?」
「もちろんよ。それは貴方にあげたの。貴方の物よ、マリナ」
「…嬉しいわ…っ…」
感無量の様子のマリナ皇女。
だったのだが、それでも持っている服が皺にならないような持ち方なのは、既に身についてしまった諸々の習慣故なのだろうか。
久々の更新ですよ、アザディスタンの二人組のは。
そしてクラウス、未知との遭遇。