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きっとお爺ちゃんなら弾けるはず!…という感じで。
35:三味線
「ねーねー、これって使えるの?」
「これはまた珍しい物を持ってきたんじゃな」
「めずらしいかなぁ……じゃなくて、ひけたりする?」
「多少ならばの」
そう言って頷いて、貸してみろ、なんて言われる物だから、ステイメンは旧ザクに三味線を渡した。それから一緒にいたブイと顔を見合わせて、期待を込めた笑みを一緒に浮かべる。自分もだけれど、彼もとても楽しみに思っているようだ。
しかし、簡単には演奏会は始まらなかった。音が少し狂っていて、調整しないと演奏できないらしい。
「旧ザクじーちゃんって、そういうのも出来るんだ」
「そりゃ、出来なければ弾くことなど出来んわい」
「どうして?ほかの人にたのんだらいいんじゃないの?」
「頼めるならの。生憎と、周りには出来るヤツはおらん」
言われてみればその通りである。
納得して、ステイメンは尊敬の意を込めて旧ザクを見上げた。
誰もの予想通り、旧ザクはお爺ちゃん、というような姿になっていた。まだまだ元気そうなお爺ちゃんである。この姿になった当初は色々と匙加減を失敗してギックリ腰にもなっていたらしい。人間の体は前の体よりも脆いから気をつけないといけないのにと、その話を聞いたときは本当に心配になった物だ。
最も、そんな心配は全然いらなかったらしくて、こうして遊びに来てみれば健康でしかない旧ザクの姿が見れたワケなのだけれど。
「にしても、よくこんな物を見つけたのー」
「ちょっとだけ押し入れ探検したんだ」
「いけなかったかな…?」
「そのくらいは構わんよ。ただ、これからは先に言ってくれたら嬉しいが」
「…!うん、分かったよ!」
「ならば良いんじゃ」
旧ザクは笑んで、元気よく返事したブイ、それからステイメンの頭に、一旦、三味線の調整を止めてぽん、と手を乗せた。
温かい手のひらに、ほんの少しだけ目を細める。こういうのは、好きだ。
「ていうか、旧ザクじーちゃん、どうしてこんなの持ってんの?」
「昔、少々の。最近はめっきり弾かなくなってしまったが…まぁ、今回が良い機会かのう。たまには弾いてやらんとコレも悲しむじゃろうて」
「これが?」
「そうじゃ。これが、じゃ」
三味線を持ち上げながら、旧ザクが言う。
「三味線というのは何じゃ?」
「楽器だろ?そのくらい分かるってば」
「では楽器とは何じゃ?」
「えぇと…ひいてもらう、もの?」
「その通りじゃな。では、そんな存在が弾かれなくなったら、果たしてどう思うじゃろうかの?」
「……悲しい?」
「よく分かった」
満足げに微笑むその様は、まるで生徒が問の答えに自分で辿り着いた事を喜ぶ先生みたいだと、ステイメンは何となく思った。
実際、そういう気分なのかもしれない。自分たちと旧ザクとではとても年が離れているから、もしかしたら自分たちは生徒ではなくて孫かもしれない。どっちだって構わないかもしれない。どっちにしたって嬉しいから。
「旧ザクじーちゃんってどんなの弾けるんだ?」
「言っても分からんと思うぞ?ワシの知っているのは古い曲じゃから」
「…うん、たしかに分からない気がするね…」
自分たちとは本当に世代は違うだろうから、それは何となく理解できる。
うんうん、と頷いている間に調整は終わったらしかった。
「さて、そろそろ弾こうかのう」
「うん!じゃあさ、出来る曲全部弾いてくれよ!」
「ブイ君、それって無茶って言わないかな…」
「構わん構わん。出来るだけやってやるわい」
「さっすが!」
「では、弾いている間は静かにしておくんじゃぞ?」
「はーい」
そうして、演奏会が始まる。
ステイメンとブイは、胸を躍らせながら、今か今かとそれを待った。
旧ザクじいちゃんの喋り方がイマイチつかめません…なんて事。