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ララァさんは怒ると怖いと思います。
42:トランプ
とす、と。
そのプラスチック製のカードが壁に刺さったのを確かに見て、シャアは少しばかり顔から血の気が引いたような感覚に襲われた。そして、実際にそれは勘違いでもなく起こっていることらしい。
まぁ、気持ちは分からないでもない。本日の猛暑の原因を作り出した相手が目の前にいたら、誰だって行動は起こす。ただし。
まさか、ララァが。
手に持っていたトランプを投げつけてくれるとは思っても見なかった。
それはどうやらガンダムもアレックスも同じだったらしく、二人とも呆然とララァと、その標的となっていたギャンを見比べていた。涼やかに笑んでいるララァと、恐怖のあまりがくがくと震えているギャンとを。
「ギャン、今すぐコロニーの気候を戻して頂戴」
「わっ…分かりましたッ!」
「そう。なら安心ね」
直立不動の体勢で肯定を返したギャンにニコリと笑み、ララァはクルリとこちらを向いた。普段と変わらない様子で。それが余計に怖いのだと、多分彼女は気付いていないのだろうというのは想像できるのだが。
「シャア、ガンダム、アレックスちゃん、というわけだから大丈夫らしいわ」
「そ…そうか」
「ラ…ララァさん、トランプが壁に…」
「す…凄いですね…」
「あら、この位は普通よ?」
「そう…なのか」
「えぇ」
何でもないように言うララァに、いつもならこの場面では「そうか、凄いな」とだけ返して済ませるのだが……今回ばかりはシチュエーション的に無理だ。固い壁にトランプが刺さるような投げ方をして、ギャンを脅迫、などと。
よっぽど、彼女は現状がお気に召さなかったらしい。
この、コロニー中が猛暑に襲われるという異常気象は、管理室にどうやってか侵入したギャンによって成されていた。それを知った自分たちは彼を止めるべくこちらに来た、という事なのだが……このようなエンディングは想定しなかった、と言う意外にはどうしようも無いのかも知れない。
まぁ、聞こうが直るというのだから良しとしようか。
…ということに、しておこう。
などと思っている間に、ガンダムがギャンに対して問いを投げかけていた。
「ところで、ギャン…お前、一体どうしてこんな事」
「知れたこと。単にやりたかっただけだ!」
「あー、やっぱり」
「む、やっぱりとは何だ」
機器の操作をしながら、ギャンが不満そうに答えた。もっと別の反応を期待していたのだろうが、残念ながらそれ以外には出ないだろう。やりたかったというのが、罠っぽいからという理由からということも容易に想像が付く。
やはりガンダムも同じように思っていたらしく、曖昧に笑って口を開いた。
「いや、ギャンだからやっぱり…ねぇ?」
「あ、はい。そうですよ、ねお兄さん」
「シャアは?」
「一緒だ。ララァもだろう?」
「えぇ、その通りだわ」
「お前たち、私を何だと思ってるんだ!?」
「ギャンだよね?」
「あぁ…まぁ、そうだが」
それ以外に何があるのだと言わんばかりのガンダムの様子に、一気にギャンの反抗心の類が消えていったのが分かった。実際、何を言い返したらいいのかが分からないのだろう。自分も言われたらきっと同じような反応をするだろう事は想像できる。
「ところでギャン、操作はまだ終わらないのか?」
「待て。あと少し………………あ」
「…何かやった?」
「…間違ったボタンを押してしまった」
「何!?何をしたんだ!?」
冷や汗を流しながら振り返るギャンに詰問すると、彼はどこか焦ったというか…本気でマズイと思っている様子で答えた。
「このボタンを押せば涼しくはなる。だが、我々は少し時間が経った後に…」
まぁ、ララァさんは完全には怒ってはないと思う。もっと怒ってたら怖いことになってると。
そして、新章?突入です。