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拍手再録です。
~刹那のお部屋~
……さて。
「この惨状はどうしたら良いんだろうな…」
「惨状、だと?」
部屋の中心にいた刹那は、ぐるりと辺りを見渡した。
それから、部屋の入り口で止まっている自分を見て、首を傾げる。
「どこが惨状なんだ?」
「…あー、やっぱそういう反応なんだよな…」
「…だから何だ」
「散らかしすぎだろ」
刹那の部屋は、予測するまでもなくガンプラ一色だ。ただし、今日は少しばかり程度が酷い。というのも、床に足の踏み場もないくらいにガンプラの箱が広がっているのである。少しばかり置いていない場所があるからそこが通路なのだろうが、この足幅ジャスト分くらいしかない小道を進む気には到底なれない。挑戦して箱を踏みつけてしまっては事だ。
それに、箱をのかそうとするのも難しい。箱は開いておいてあって、適当によけたらどの箱がどの箱とセットなのか分からなくなりそうだ。
呆れた思いを抱きながらも、もう一度、見渡す。
「いったい何でこうなってんだよ…」
「整頓だ」
「だろーな…そりゃ見たら分かる」
問題は、何でここまで大量にあるのか、だ。
「自分の金で買ってるからまだ良いんだけどな…」
「何の話だ?…それよりロックオン、何か用なのか?」
「や、お前がいつまで経っても部屋から出てこないから見に来ただけぜ」
「そうか。…悪いがまだまだ終わらないぞ?」
「それも見たら分かる」
というか直ぐに終わったらそれはそれで奇蹟だ。この惨状と同じくらいに。
頭をガシガシと掻いて、息を吐く。
「晩飯とかどうする気だ?この小道辿って出る気かお前」
「それしかないだろうな」
「…箱とか踏まないのかよ?」
「俺がそのようなミスをするわけがないだろう」
自信満々に言う刹那に、ロックオンは肩をすくめた。
それこそ、言われるまでもないことだった。
(2009/08/02)
~ティエリアのお部屋~
「……何だ、それ」
「見て分からないか?」
「分かるから訊いてんだけど」
「分かるのに訊くのか?どうしてそのような無駄なことを……まぁ良い」
ティエリアはそう言って、椅子に縛り付けられたライルに見せるように、その手に持っていた試験管の……中身を、振った。
「薬だ」
「いやだから、何の薬みたいなの教えて欲しいんだけど!?」
「薬は薬だろう。どのような効果があるかは…知らないな」
「知らないのかよ!」
「実験台がいないのだから仕方がないだろう」
「仕方がないって…ちょっと待てぇ!?その流れだと、俺が実験台じゃ…」
「今頃気付いたのか。遅いな」
何を当然のことをと言わんばかりの視線に、ライルは、無駄と知りながらも縄がほどけないかと足掻いた。が、知っていたとおりにその縄はとても強く結んであるようで、多少揺れ動いたくらいではほどけそうにもない。それと…多分、結び目は普通にやってもほどけないのではないだろうか。
…後で、ナイフとかで切るんだろうか、縄。
その時にうっかり腕まで切られませんように、というかその時まで生きてるんだろうかと真剣に考えている内に、試験管が、目の前に来ていた。
顔を上げると、冷酷そうなティエリアの顔。
「飲め」
「って言われてハイそうですか、って飲むヤツっていんのかい?」
「…ほう、口答えをするのか」
「……」
あ、早まったかもしれない。
一気に室内の温度を二、三度下げた気配に、ごくりと唾を飲む。
これで確定した。…無事には、出られない。
ニヤリと、とても楽しそうに愉快そうに、付け加えて残忍っぽく笑い、ティエリアは試験管を傾けた。
「さぁ、何が起こるか楽しみだな…?」
「——!」
そして、ライルの声なき悲鳴が響き渡った。
(2009/08/02)
~アレルヤのお部屋~
「元の場所に戻してこい!」
「何で!?可哀想じゃないか!」
「可哀想でも何でもともかく!この家にこれ以上厄介事が入り込む余地はねーんだよ!」
「だ…だけど…っ」
ぎゅ、と苦しくない程度にだろう、アレルヤは拾ってきた子犬を抱きしめた。
「こんな可愛いのに…また捨てるなんて…」
「可愛かろうと関係ねぇんだよ!…ったく」
何でこんなのを見つけたのか。
頭を掻きながら、息を吐く。本当に、何て厄介な。
戻してこいとは言っているものの、それが実際に実行できるかどうかに関しては、ハレルヤでさえ懐疑的だった。既にそれは拾ってきてしまったものであって、それを見捨てるというのは何となく寝覚めが悪い。切羽詰まった状況ならさておいて、このような、実は割とゆとりがないわけでもない生活の中では、特に。
だからこそ、別の意味でも厄介なのだ。
「…しゃーねーな…あのナマイキ編集者にでも言ってみろ」
「え……?」
「もしかしたら引き取るかも知れねぇぜ、あの女」
「あ…そっか!ありがとう、ハレルヤ!」
「別に」
ただ単に案を述べただけだ。
それでも照れくさく、ふいと視線を逸らすとくすくすという笑い声が聞こえてきた。
「…何で笑んだよ」
「だって、ハレルヤ子供みたい」
「子供はお前だろ、アレルヤ。子犬一匹にあんなにムキになりやがって」
「だって…可哀想だったんだから仕方ないじゃないか」
む、とした表情でこちらを見るアレルヤに、そうかいと気のない返事をして、それからポイと片割れの携帯電話を投げ渡す。
「さっさとかけろ」
「…!うん!」
(2009/08/02)
~ロックオン(ニール)のお部屋~
何度来ても思うのだが。
この部屋も、中々凄いのではないだろうか。
ちゃんと棚の中に飾られているトロフィーや賞状、盾……そしてそれらを手に入れるために使ったのであろう銃器の数々は、多分この人物の部屋の中でしか、少なくとも近場では見ることが出来ないに違いない。
つまり、だ。
ロックオンは、そういう大会に出ては何度も優勝をしている人物なのである。
だからこそついたあだ名が『ロックオン』であり、本名の方はライルくらいしか使おうとしない。本人が気にしていないようだから良いと思うのだが。
ちなみに、どうしてそんな部屋に刹那がいるかというと、そのロックオンに英語の勉強を教えてもらおうと思ってのことだった。授業の時にグラハムが乱入してきたりして、見事に邪魔されたために進行が遅れたのである。
日常茶飯事、ではあるのだが。
やはり、何とも言えないというのが本心である。
「おーい、刹那ー?何か違う世界に旅立ってないかー?」
「…いや、別に」
向かいに座っているロックオンに呼びかけられ、刹那の意識は完全に現実に戻った。
首を振れば本当かと言わんばかりの表情を浮かべられたが、流石に許されそうだとは言っても、教えてもらいに来た身としては素直に『少しばかり旅立っていた』と言うのも礼儀に欠けている気がする。
それはだからこその返答で、ロックオンはそこまで読み取ったかは知らないが、まぁ良いけれど、と言わんばかりの表情で見せている教科書に視線を戻した。
「で、今日遅れたぶんはどこまでだよ」
「四ページ」
「少し多いな…てかなぁ、授業遅れた分は容赦なく切り捨てるってどうなんだよ」
「仕方ない。一々ケアしていては進まない」
「…あぁ、あの先生じゃそうだろうけどな」
「既にクラスのヤツらは諦め状態だが」
「そう言うお前は?」
「…俺もだ」
呟くように答えながら思う。
そもそも。
諦めない方が難しいだろう、あの相手では。
(2009/12/15)
~ライルのお部屋~
意外かも知れないし、当たり前と思われるかも知れないが。
実は、ライルの部屋は居心地が良い。
どうやら、それは物が少ないからこそのシンプルさから来る物らしいのだ。残念ながらティエリア自身の部屋には色々な実験で使った、そしてこれから使うつもりの薬品が多量にあるために、このようなシンプルさを得ることは出来ない。
したがって。
「ライル、いい加減にこの部屋を俺に譲渡しろ」
「誰がそんなん聞けると思ってんだよ」
「君に決まっているだろう?」
「俺も従わねーよ!」
「何?そうなのか?」
「そうだ!何回言ったら分かってくれるんだティエリア!」
多分、何回言われても分かってやらないだろう。
その自覚は十二分にある。ティエリアにとってライルとは、こう言うときに引くべき対象ではないのだ。むしろ押しまくる対象である。
そこは分かっているのか、こうやって口うるさく言う彼も最終的には黙る。もっとも、黙っても直ぐに復活するが。その後にティエリアが再び沈黙に、半ば強制的に沈めてやるのは既にお馴染みのパターンになっている。
勝手に拝借したライルの部屋の椅子に足組をして座ったまま、ティエリアは読んでいた本のページを捲った。
「ならばライル、譲渡は良い。ただ、この俺を部屋の主として認め、お前はその配下に下ると決めるのならば部屋は使い続けて構わないが」
「それは譲渡と一緒だろ!?ティエリアが部屋の主って時点でアウトじゃねぇか!」
「気のせいだ。気にするな」
「そんな盛大な気のせい、俺にだって出来ねーよ!」
「…盛大か?そこまで?」
「…盛大じゃなかったら何だ」
問い返され、少し悩んで。
「…知らないな」
「あ、お前良い返事が見つからなかったんだろ?」
折角言葉を返してやったのにライルがそんなことを言うものだから、ティエリアは持っていた本を閉じて彼に投げつけた。
(2009/12/15)
~ハレルヤのお部屋~
「ハレルヤ、締め切りが近いのは分かるけれど…少し休んだ方が良いと思う」
「あ?…今何時だ」
「日付が変わる頃。夕食が終わって入浴して、その後からずっと仕事しっぱなしじゃないか。休まないと本当に倒れかねないよ?」
「…しゃーねーな…つまり、寝ろって事だな?」
「ハッキリ言うとそうだね」
頷いて、手を止めたハレルヤの傍で、アレルヤは後片付けを開始した。片割れは疲れているのだし、こんな事までさせる必要はないだろう。というか、させたら本当に倒れかねないような気がした。つまりそれ程までに、最近の根の詰めようは凄いわけであって。
本当に倒れたら大問題だなぁと内心でため息を吐きつつ、ああらかた片付け終えた机に少しばかりの満足感を覚え、椅子に座っていたハレルヤをベッドに追いやった。
そうしてベッドの縁に座ったハレルヤの、隣に座る。
「小説家は大変だね」
「つーか、何でンなモンやってんのかが本気で分からねぇ…」
「ハレルヤ…自分のことじゃないか」
「だとしてもだよ。ったく…本当に何がどうなって…」
「覚えてるくせにそう言うことを言うのは悪いクセだね」
小説家になった理由くらい、しっかり覚えているくせに。
そう思ってついつい笑うと、ふいと逸らされる視線。照れているのかも知れない。
沈黙が降りたが、アレルヤはあえて何も言うつもりはなかった。何も言わなくても、この沈黙は何の害を引き起こしもしない。穏やかな沈黙というのも確かに存在するのであって、これはまさしくそれだった。
「…寝る」
そして、その沈黙を破ったのはハレルヤだった。
静寂が破られたことに少しばかり残念さを覚えながら、アレルヤは立ち上がる。
「じゃあ、僕は部屋に戻るね」
「いや、良い。お前もここで寝ろよ。詰めりゃ二人でもどうにかなんだろ」
「…ちょっと無茶だと思うけど」
ベッドはそこまで大きい物ではないし。
けれど、まぁ、その申し出はそれ程嫌な物ではなかったので、大人しくハレルヤと一緒に布団の中に潜り込む。そうして、笑んだ。
「何だか、懐かしいね。子供の頃に戻った気分だよ」
「…あぁ、そういやあの頃はいっつもこんなんだったか?」
(2009/12/15)