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拍手再録です。
~一時の安らぎ~
どうして、あの二人は遠路はるばる欧州まで来るのやら、と、廊下を歩きながら小十郎はため息を吐いた。別に、来るなとは言えないのだが何とも言えない。彼らは敵の、しかも大将なのである。
もっとも、そんな相手でも政宗が歓迎するというのならば小十郎も同様にしなければならない。そして実際に政宗は二人が来ることをとてつもなく喜んでいるようだし、それを見ると無条件でこれでも良いか、などと思ってしまいかけたことも何度もある。慌ててそんなことはないと思い直したが。
ともかく、自分にとってあの二人はそういう相手だった。
…まぁ、最終的に元親と元就が起こす乱闘によって、城の幾分かが毎回のごとく修理しなければならない惨状になる点は、何よりも歓迎すべきではない箇所ではあるが。
それ以外を除けば。
概ね、政宗の相手としては悪くない相手、かもしれない。
少なくとも今、戦で相対していない間は。
随分と甘い考えだと苦笑しつつ、小十郎は目当ての部屋の前で立ち止まった。考え事をしている間に、いつの間にか着いてしまったようだ。
と、そこで、不思議な違和感を覚える。目の前の部屋は、政宗の自室。そして今は元親と元就を迎えている部屋である。それが一体どうしてここまで、しん、と静かなままなのか。いつもならば大騒動になっているというのに。
す、と少しだけ襖を開き、中をのぞき見る。
そうして見えた光景に、自然と口元がゆるんだ。
中では、三人が川の字になって寝ていたのである。
とは言うものの、近づきすぎて川の字どころか単なる丸になっているような気もする。どうであれ、その様子が穏やかで微笑ましい物であることに代わりはない。いつか敵にある相手の前で眠るなど、という小言まで引っ込むような穏やかさであることには。
にしても、眠ってしまうと瀬戸内の二人組もやはり静かな物で。元就とはともかくとして元親がここまで静かなのは見ていて新鮮だ。見るのが毎回、元就と言い争っている場面だから、なのだろうか。これは。
しかし、これは起こしてはならないだろう。
そう判断した小十郎は、そっと襖を閉じた。
(2009/08/02)
~甲斐夏~
多分、この屋敷だって、何も変なことをしていなければ十二分に涼しいと思うのだ。
思うのだが、普通に出来ないのが二人いるせいで、結局は暑ッ苦しい空間が出来上がっているのであった。それが何とも口惜しく、どうしようもなく、佐助はため息を吐いた。全く、どうしてここの主従は共々。
そして、これが夏の基本的状況だった。
お陰で、佐助は避暑を本気で考える始末なのだけれども、残念ながらそれは口で言おうと態度で示そうと、上司二人には全く通じないのである。
二人とも、やけに遠い世界に住んでいるからだろうが。
何となく、意思が通じないというのは悲しい物がある。
…通じないと、結構致命的な問題が起こったりするので、特に。
例えばこないだ。
佐助は無理だと言ったのに、それを何度も何度も言わなかったせいだろうか、普通に無茶な任務を与えられてしまったのである。その際、送り出されるときに言われた言葉が『お前なら出来るから頑張れ』であって、それを聞いて、本当に二人をどうにかしてやろうかと思ってしまったのを覚えている。
結局しなかったけど。
何たって主君だし。
そう言うことをするとしたら、それはもっと大きな大問題が起きてからだ。
「あーあ…どうしようかねぇ」
今でも庭で殴り合いを続けている暑ッッ苦しい二人を長めながら、佐助は息を吐く。
今なら、どこか涼しいところに去っていっても誰も文句は言わないと思う。長いこと留守にするならともかく、数日間くらいなら勝手に偵察に言ったのだとでも思ってくれるだろうし。書き置きくらいはするから。
だとして。
さて、どこに行けば一番涼しい想いが出来るだろうか。
「やっぱり北、かねぇ…」
あちらならば、夏場でもある程度は気温が低いだろう。
考えた末そうすることにして、佐助は腰を上げた。
もちろん、殴り合いはまだ続いている。
(2009/12/15)
~猫庭~
(2010/05/06)