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第一容疑者が彼になるのは仕方ないと思うのですが。
突発的仮想物語 6 捜索
「生憎だが、ここにダブルオーとセラヴィーはいない」
「…本当か?」
「私がどうして嘘を言う必要がある」
「……」
堂々と、ハッキリとそう言って武士仮面は腕を組んだ。
「しかし…帰っていないというのは確かに妙だな」
その言葉に。
刹那は、そして一緒に着ていたケルディムも後悔した。
マズイ。この流れは非常にありがたくない。何故かと言えば、それはこのままでは武士仮面が捜索隊の中に入ってしまいかねないからだ。
確かに武士仮面は第一容疑者だった。むしろ彼以外に容疑者に相応しい人間がいないくらいだった。だから、自分たちは念のために一人ではなく二人で、ここに来たのである。だが、その仮定が間違いだとしたら。
武士仮面が介入してくる隙を、与えることになってしまう。
さぁ、と顔から血の気が引いていくような気がした。
それは、何としてでも避けなければならない。この相手が介入することで解決した仮想の事件は幾つもあったが、彼は解決と引き替えに厄介事を起こして回る。何よりも純粋に彼が一緒に散策に加わるのが嫌なのだ、刹那は。
「…武士仮面、疑ったのは謝る」
「ん?どうかしたのか?少年のような青年のような少年。やけに正直だが」
「いや、純粋に悪かったと思っただけだ」
主に、彼に対してではなくケルディムくらいに。
彼もまた、武士仮面の標的の一人なのだから。
だからこそ、自分の事も含めてこの武士仮面は付いてこさせるわけにはいかない。
「…だから、だ。俺たちは直ぐに行くから後を追うな」
「何故だ少年!大人数の方が効率よく探すことが出来るではないか!」
「お前が来ると効率が非効率になるんだ」
「そのような事は有り得ないだろう」
「有り得るから言っている!」
何でそれが分からない、という非難の気持ちを込めながら叫び返し、しかしそれも彼に通じるわけもない。
む、という表情でこちらを見られてしまった。
「一体どうしてなのだ?私は足手まといだとでも?」
「いや…そういうわけでは……」
…あるような。
本人の技能は高いのだろうが…。
どうしても…他の、彼自身の興味がある方向にしかそれが活用されないというか…。
仮に捜索隊に入れたとしたら、彼はもしかしたら一番最初に二人を見つけるかも知れない。そしてその後に勝手に連れて帰るかも知れない。
有り得ないと、こちらも言い切れないから何とも言えない。
こほん、と息を吐いてとにかく、と続ける。
「お前の手を患わせる必要はない、ということだ。以上だ」
「つれない態度だな、少年」
「いや…刹那って少年と違くね?刹那は青年だろ?」
「だが、私は今この瞬間に決めた!君が嫌がろうと付いていくと!」
ケルディムの小さなツッコミをスルーして、武士仮面がグッと握り拳を作ってそれをぐ、と天井に向けて突き上げた。
それに対して、刹那は。
「結構だッ!」
廊下に置いてあった消化器を掴み、武士仮面目がけて思い切り投げつけた。
ごぅん、という鈍い音と、どさ、という何かが倒れる音。
ピクリとも指が動かないのを確認して、刹那は額の汗を拭った。
「駆逐完了…」
「って刹那!?どうすんだこれ!」
「安心しろ、この程度で死ぬ武士仮面ではない」
「けどなっ…」
「これで足止めはせいぜい五分くらいか」
「…マジで?」
「本気でだ」
恐る恐るというケルディムの言葉に頷いてやると、彼はふら、とめまいを覚えたかのように揺れた。武士仮面の有り得ない頑丈さを知り、衝撃でも受けたのだろうか。
…気持ちは分かる。痛いほどに分かる。
「とにかく行くぞ、ケルディム」
「あー…俺、人間に対する考え方改めた方が良いかもしれない…」
「アイツは規格外だ」
「…あぁ、そうなんだ」
どこか疲れたようにケルディムは言った。
…五分でも長めに考えてるかも知れない。