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このお題をあげるのも久しい…。
08.ひとつおまけ
「それは…?」
「暇だったから作ったんだ」
軽く笑って、アレルヤはマフィンを一つ、差し出した。
「はい、よかったらだけど、いる?」
「あぁ…もらおう」
受け取って、刹那はチラリと彼が後ろに回している手の先の、袋の中のたくさんのマフィンを見やった。数からして…多分、クルー全員分はあるだろうか。こういう公平な点は流石という他ない。
マフィンを片手で弄びつつ、ふっと、アレルヤが向かっている先に何があったかを思う。ここでは、偶然にばったり出会ったのだ。
そうして、結果。
「ソーマ・ピーリスか?」
「うん」
どこか苦笑に近い笑みを浮かべ、アレルヤは頷いた。
「そのね、まだ仲良くなれないから……こういうのと一緒だったら、少しくらいは喋ったり出来ないかなぁ……と」
「お前も大変だな」
「今までと比べたら全然楽だよ」
「…まぁ、お前の今までは凄いからな…比べようもないだろう」
「そう言われると言い返せないけどさ…刹那も大概凄いけどね。四年間、どうやって生活してたの?お金とか大丈夫だった?」
問われて、刹那は少しだけ考え込んだ。それと同時に思うのは、あの四年間の事を多少引け目はあるものの、それでもどうにか普通に喋り会えると言うことに対する幾らかの安堵と驚きだった。特に、アレルヤは四年間のことなんて思い出したくも無いだろうし。
しかし、そんな考えなど気付かせないままに口を開いた。
「金の方は、以前からある程度支給されていた資金が残っていたから問題なかったな」
「そっか…あ、ってことは、僕の口座のお金もそのままなのかな」
「恐らくは。後で確認でもしてみたらどうだ」
「そうすることにするね」
こくりと素直に頷いた、アレルヤの脳裏に広がっている思考は何だろうか。多分、アレルヤの方も結構な金額が貯まっているだろうから、それを改めてみたときの彼の反応が実は少し興味深い。後でコッソリ見に行ってみようか。
そう思われているとも知らず、アレルヤはそうだ、と手を打った。
何だろうと訝しく思いながらも眺めていると、彼が差し出してきたのは……もう一つのマフィンだった。
「これ、良かったら。二個目だけど」
「良いのか?」
「うん。一個作りすぎちゃってね」
「…お前のは?」
「ちゃんと確保してあるから問題ないよ。マリーのもソーマ・ピーリスのも別々に確保しているから、こっちも良いし」
「別々なのか」
「別々だよ。だって、違う人間じゃないか」
そうだよね?と視線を向けられて、刹那はどうだろうかと返答に窮した。そういう思考は、恐らく二つの人格を身の内に秘めている人間にしか、分からない考え方なのではないだろうか。
刹那はそこまで思い、ふと、思いつくことがあった。
視線を、二個目のマフィンに落とす。
「…これは、ハレルヤのか」
「うん……ついつい習慣で」
「習慣…」
「困ったものだよね…一個だけ余っても仕方ないのに」
微かに笑うアレルヤに、刹那は、思わず口を開いていた。
「良かったらだが、残った一個はこれからも俺が食べてやる」
「へ?」
「誰かに食べさせるための物だろう、それは。だから」
自分で食べるのは、ちょっとでなくもの悲しいのではないだろうか。
そう思っての言葉に、アレルヤはキョトンとした表情を見せ……直ぐに、先ほどと同じように穏やかな笑みを浮かべた。是、ということだろう。
「じゃあ、お願いしようかな」
彼の口から出た答えも肯定そのもので、刹那は満足した気持ちでこくりと頷いた。
「次はマーマレードが良い」
「突然リクエストかい?…良いよ、次はそれだね」
「楽しみにしている」
そしてその次はケーキとかだったりするんだろうとかいう話。