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それはまぁ、衝撃的だったでしょう。



 正直、ここに訪れたのは何でもなく、情報収集のためだった。
 別に居着こうとも、そもそもこの街に探し人がいるとも思っていなかった。単に、この街には腕の良い情報屋がいるというから、それに頼ってみるのも手かと思っていた、それだけ。そして、情報屋が中々見つからずに今日に至った、それだけだった。
 だった、のに。
 目の前に、今まさに、何千年も前に突然姿を消した竜が存在していたのである。
 一瞬、夢かと思ったくらい上出来な奇蹟だった。
 しかし、数瞬後。
 気付いたのはただ一つ。これが、奇蹟ではなくもっと別の物であることに。
 言うなれば。
「政宗…お前、どうしたんだよ」
 それは。
「何でそんなに力が削げてんだ…?」
 悪夢。
 それは誰よりも自由だったはずの竜が。
 地に、縫いつけられているという事実。
「政宗、」
「っち……これだから会いたくなかったんだよ、馬鹿チカ」
 面倒そうに、どこか後ろめたそうに言う竜に、続けて問う。
「お前…まさか封じられてんのか…?」
「だったら…何だよ」
「何だよって…お前、そんな簡単に言葉に出来る問題じゃねぇだろッ!」
 あくまで静かに応じる政宗に、元親は声を荒げた。
 よりによってどうして竜だ。空を行く存在が、一体どうして地に封じられなければならないというのだ。おかしい冗談だ…いや、おかしくない。笑えない冗談。嗤うしかない喜劇。あってはならない現状。
 それを、引き起こしたのは一体…誰だ?
 一体誰が空を…否、『天』を引き摺り下ろした?
 妖がそれを成すわけがない。妖に出来るわけがない、ならば。
 全ては、人間の仕業。
 人間なんて存在するから。
 妖にとって不可侵の領域の、その  が。
「誰がやった」
「おい、元親、」
「誰がやったんだ、政宗」
「…知ってどうすんだ」
「殺す。言うならそいつだけで許してやるが、それがダメなら街を潰す」
「…落ち着け、元親」
 どこか言い聞かせるように、何だかやや焦ったように……街を、人間を、封じた誰かを庇うように、政宗は言った。
「お前、俺がこうなってから何千年経ったと思ってんだ。俺を始めに封印した奴は死んでるよ、既にな。そのくらい考えれば分かるだろうが」
「ならその子孫だ。そいつを殺す」
「元親…っ!」
「ふむ…ならば、」
 と。
 今まで黙っていた二人の人間の中の静かに冷静にこちらを見やっていた一人(もう一人は怒鳴った辺りから完全に凍結状態だった。叫びに紛れていた怒気にでも当てられたのだろう)が、ゆっくりと口を開いた。
「我を殺すが良かろう。それでそなたが後悔せぬのならばな」
「…テメェか」
「元就!」
 狼狽したように政宗が人間を振り返るが、その人間はと言うと落ち着き払った物だった。冷静に事を見ると言うよりも、どこか『この件に関してのみ』諦観的であるように思えた。
 瞬間、察する。
「まぁ、我よりは頼りに出来るのではないか?あれほどの力を持っているのならば、あるいは力づくで封印を解けるやもしれぬであろう?」
 こいつは、殺してはいけない相手だと。
 どうしてそう思ったかは分からない。分からないが、殺してしまえば何か取り返しの付かないことになるのだろうと言うことは、直感的に察せられた。察してしまったからには、たとえ殺気が殺意が収まらなかったとしても……殺すべきではない。
 こういう理由のない直感は、無視すると後悔ばかり引き起こる。
 悔しいことに。
「…元親?」
 敵意が収まったことに気付いたのか、政宗が不思議そうにこちらを見た。まさか突然収まるとは思っていなかったのだろう。安心して欲しい、自分だって驚いている。仕方ないと思ったが、まさかここまであっさりと引くことが出来るとは思わなかった。
 何故だろう。政宗が、彼のために焦ったからか。
 分からなかったが、色々と訊きたいことはある。だから言った。
「どうしてこんなんになってんのか、聞かせてもらうぜ」
 …だが、その答えを聞く前に問題の方が、飛び込んできた。








チカさんの直感は優れてる気がするって言うそんな自分勝手な認識があるんです…。で、そういう直感って、無視したら何気に後悔とかしたりするので、つまりそういうことで。
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