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生傷の絶えない生活だと思います…。
09.消毒液
医務室に足を踏み入れると、そこには先客がいた。
「アレルヤ」
「あ…やぁ、刹那かい?」
くる、とこちらを向いて微笑んだ彼は、その後手元を狂わせたらしく、痛みに顔をしかめていた。消毒液が悪い具合にしみたのだろう。
というか、一体どうして消毒を。
何かそういうことが起こるようなことがあっただろうかと首を傾げつつ、刹那はそのまま医務室の中へと進んだ。アレルヤがどうしているのかは気になるが、自分も自分で用事を済ませなければならない。
「刹那はどうして医務室に?」
「検査結果を確認に来たんだ。そういうアレルヤは」
「僕はマ…ソーマと、ケンカしてしまって」
「またか…」
「うん、また、なんだ」
困ったように笑って、アレルヤは息を吐いた。
「分かってるんだけどね……どうしても、マリーって呼んでしまうんだ。それに、接し方もマリーと一緒にしがちだし」
「同一人物なのだから仕方ないだろう」
「同一じゃないよ。違う人格だもの」
首を振って刹那の言葉を否定し、彼は続けた。
「顔が同じでも性格が違う人なんてたくさんいるよ。僕らの場合は、それがとても極端なだけだから、ね」
「だが、顔は同じ……か」
「そういうこと」
顔が同じ相手なら、どうしたって以前から知っている相手と同じような態度で接してしまうだろう。刹那にだって、そのような気持ちは分かる。
ただ、問題は相手がその対象ではないと言い切れないことだろう。
違うとハッキリ分かっているのなら、まぁ、難しかろうと区別は付けられるはずだ。だが、同じ体に同居している二つの人格が相手であるとなると、それもなかなかに難しい事柄だとも思う。
つまり、大変なのだ、それは。
多少なりとも同情して、刹那はアレルヤの隣に座った。
それからピンセットやら消毒液やらその他諸々の消毒セットをアレルヤの手から取り払った。
「俺がやろう」
「え…!?いや、そんないいよ刹那!刹那は刹那で用事が…」
「どうせ直ぐに終わることだ」
「でも…」
「気にするな」
というか、気にされてももう止める気もない。
「痛かったら言え」
「…うん」
「…ところで」
手当を開始しながら、刹那は首を傾げながら言った。
「いつものことだとはいえ、医務室に来るほど問題があったことは今まで無かった、な?」
「そういえばそうだね」
「…何をしたんだ?」
「よく、分からないけれど。そうだね…丁度、ソーマの虫の居所が悪かったんだと思う。思わずやりすぎた、っていう感じかな。ソーマもしまったって表情をしていたし、ね」
「相変わらずタイミングが悪いんだな、お前」
「…気にしてるんだから言わないでよ」
微かに不機嫌そうになったアレルヤに短く済まない、と詫びて、思うのはこれからさきの大変さ、だろうか。
マリーとソーマがイコールで繋がらない以上、これからもこういった事態は起こるのかもしれない。その時、何度も何度も彼が医務室にやってくると考えると、何となく痛い気分になるのは自分だけだろうか。
「たまには抵抗の一つくらいしてみろ」
「無理だよ。だって悪いのは全面的に僕だし」
「どこがだ。こうなったら彼女は加害者だろう」
「刹那は厳しいね」
「アレルヤが甘すぎるだけだ」
基本的に誰に対しても甘いだろう彼は、彼女が相手となるとさらにそれに磨きが掛かる気がする。だから、もっと気をつけるべきだし、もう少し厳しくするべきだとも思うのだが、果たしてどうだろうか。
いや…アレルヤがこの性格だから、衝突もなくある意味で平和な性格がおくれているのかもしれない。
そうなると何とも言えない。刹那は小さく息を吐いた。
こういう事もあると思うんですよね。ていうかソーマ、やりすぎたって、何をどうしたんだろう…。