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彼らもこういう事になってたらいい。
12.迷子
「…ここどこよ」
どうしよう、リボンズ。
迷子になっちゃった。
「…っ…じゃなくて!」
慌てて首を振って、ヒリングは前を見据えた。
三つに分かれている廊下を。
…事の始まりなんて、あってないような物だから考えない。ただ言えることといえば、自分はこの組織においては認めるしかないほど新参者であって、建物構造を全くではないが理解できていない存在であると言うことだ。
お陰でこんなハメ。
…イノベイターなのに。
「どうしよ…ブリングにでも訊いてみようかしら」
脳量子波を通してここにいる時間が自分よりも長い同胞の一人に訊けば、きっとちゃんとした道筋を教えてくれることだろう。
だが…しかし。
それはダメだとヒリングは首を振った。
多分なのだが、ブリングはリヴァイヴと一緒にいる。それはつまり、彼にまで自分が迷子になっていることが伝わると言うことである。それは引き続いて、何とか迷子から脱出した後に嫌みを言われまくると言うことだ。
そんなのはゴメンなのである。
ならば軍のデータベースに侵入して見取り図を、とも考えたが、正直、今いる場所が分からないのに見取り図を手に入れたところで意味はない。
案外、イノベイターも初歩的なところで引っかかるのであった。
とりあえずリヴァイヴにだけは事の顛末を知られまいと決意して、ヒリングは再び……中央の廊下を選んで歩き出した。
そうしてしばらくして、二つの分かれ道。
「…あーもう!何でこんなに分かれ道が多いの!しかも単なる船のくせにどーしてこんなに大きいのよーッ!」
「あの…」
「何!?取り込み中だから放っ……てあれ?」
勢いのままに振り向き、それがどこかで見たような顔だったので思わず言葉を止める。
どこで見たのだったか……あぁ、そうだ。リボンズの傍にいたとき。
「アンタ、ルイス・ハレヴィ…だっけ?」
「はい。えっと…迷われたのですか?」
「……違うわ。道を間違えただけよ」
「…?迷子ではなくて?」
「えぇ。迷子なんかじゃないの。絶対違うの。行き先が分からなくなっただけ!」
「は…はぁ」
まくし立てるように言うと、気圧されたのかルイスはこくりと頷いた。
何というか…自分でも、今言った言葉は暗どころかハッキリと『迷子です』と宣言しているような物だと思う。だけれども、自分で明確に迷子だと、彼女に……人間に伝えることはどうしてもプライドが許さなかったのである。
「あ、でも丁度良いわ。アンタ、ちょっと私を食堂まで連れて行ってよ」
「食堂へ?」
「良いわよね?」
「構いませんけれど」
「話が分かる子は好きよ。じゃあ案内よろしく!」
「じゃあ、付いてきてください」
そう言って前を歩き出すルイスの後を、ヒリングはそのまま付いていった。前を歩かれるのもちょっと気に入らないけれど、背に腹は替えられないと言うではないか……とどうにか納得させた。それに、彼女がいないと自分は迷子のままだ。
「食堂、ちょっと遠いですけど」
「問題無い無い。どうせ同じ船の中だし。遠いって言ってもたかが知れてるでしょ?」
そんなことよりも問題は、早く現状から脱出することだ。
食堂に着きさえすれば、あとは自分だって有る程度の道のりは分かる。行動範囲内、と言うヤツだ。
これでようやくどうにかなるのかと安堵する思いで、ヒリングはのびをした。
「あ、アンタ、食堂に着いたら何か飲み物奢ってあげようか?」
「え?そんな、良いですよ」
「遠慮しないでよ。どうせ金なんて有り余ってるし」
何せ自分たちの生活費は連邦辺りから幾らでも奪うことが出来るのだから。
だから。ね?と笑うと、彼女はどこか困ったように笑い返した。
多分、この事態から脱出したヒリングが最初にやるのは艦内の部屋とか色々調べることです。