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正確にはアロウズ。…アロウズカテゴリ作るべきだろうかな…。
11.保険
「……何やってるんですか」
「訊くな」
「それは無理というものでしょう」
「…」
苦虫をかみつぶしたカティ・マネキンの表情を、アーバー・リントは何とも言えない思いで見ていた。この相手がこんな表情をする現状を見て、笑えばいいのだろうか。それとも嫌いな相手だろうと同情でもするべきか。
まぁ、一つ分かること。
彼女が、どうしたってこの状況から抜け出せはしないだろう事。
それだけが分かれば、今のところ問題はないのだが。
しかし、場所が場所、状況が状況だけに気になるのである、どうしても。
それ程までにこの状況が妙なのである。
……以前から、他の相手よりは懐いているとは思っていたのだけれども。
「…何で貴方がパイロットルームにいるんです」
「この馬鹿を呼びに来ただけなんだがな…それがどうしてか」
「この状況に?」
「そういうことだな…あぁ、もし敵が来たら敷きは頼む。私は動けないからな」
「でしょうねぇ」
ピクリとでも動けば目を覚ましそうだ。全員。
ちなみに全員、というのは、この女の体に寄りかかって眠っているライセンス持ち二人と赤毛のパイロットの事を指す。
そう、なのである。
彼女は眠っている人間のせいで動けないのだった。
……有る意味、自分にとっては幸運だろうか、これは。もしもの時が来さえすれば、一人で好きに作戦をとることが許される。その作戦が成功すれば、全ては自分の功績。その間この女はずっとこの部屋にいるしかないのだ。
だから、喜びこそすれ同情する部分はない。実際、嫌いなのだから同情する気も起きないはずなのである。
「にしても良く寝てますねぇ…写真でも撮りましょうか」
「止めておけ。後で軽く叩きのめされるぞ」
「それはどちらにです?」
パトリック・コーラサワーでは無く、それがライセンス持ちの二人のどちらかであることを予測立て、訊く。この赤毛の男はその程度のことで揺らいだりしないくらいに馬鹿で調子乗りでお気楽な人間だと、自分は認識しているのだ。そして実際、あまりそれは間違いではないように思える。
案の定と言うべきか…そこは相手も同じような気持ちだったらしく、ため息を吐いて肩をすくめるような気配を見せた。もっとも、両肩に持たれているライセンス持ちたちのせいで、それも上手くできないようだが。
「どちらにも、だろうな」
「そうなのですか?」
「あぁ。…二人とも、寝顔を勝手に撮られて良しとするような性格ではないだろう。特にヒリングなどは」
「言われてみればそうですか。というか名前呼びですか?」
「そう呼べと言われた。そちらの方が気が楽だそうだ」
「成る程?」
そこまで懐かれているのか。
それがこれからの作戦実行などで自分に不利にならないかと一瞬危惧したが、彼らは好きな相手であろうと嫌いな相手であろうと他人に構わず動いているような気がしたので、さほど問題はないかと結論づける。そもそも、人間の言うことなど聞いてやるものかと、初めからしてそういう態度なのだ。
「しかしな…」
などと思っている間に相手はどこか皮肉げに笑って口を開いた。
「…今回ばかりは貴官がいてありがたいと思うぞ」
「…は?」
「感謝していると言っているんだ」
思わず聞き返したが空耳ではなかったらしい。
相手も相手でかなり自分のやり方や考えを嫌っている節があったのに、一体どのような考え方の変わり方だと思ったが、それもどうやら違うようだ。表情の中に一抹の不快さがあった。
では何故かと考えれば簡単に分かる。
「指揮ですね?」
「その通りだ。…恐らくだが、本当に大きな任務でも無い限り、この二人は確実に起きない。そして、起きないと言うことはそのままずっと私の腕を拘束していると言うことだ」
「そういえば今も捕まれてますねぇ?」
「あぁ…だから有事の時は頼むぞ」
不愉快そうに言う彼女を見て愉快に笑い、答える。
「では、その時にはご期待に添いましょう」
まぁ、有事の時なんて無かったんですけどね。