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これでラストです。
『生きてるからだろ』
あの言葉が、妙に頭から離れない。
新羅の住むマンションから出て、臨也は池袋の街をのんびりと歩いていた。
今日は突然背後や横側から自動販売機が飛んでくるような事柄を心配する必要もなく、故に過剰な警戒も必要ない。もっとも、普段であってもそれほど警戒をしているわけではないけれど。
歩きながら考えるのは、昨夜の話。
見つかって、戦って、追いつめて。今なら殺せるかな、だなんて、そんな事を思えるくらいの状況を目の前にして。
結局、殺さなかった。
それどころか、路地の奥の奥から運び出そうとさえしてしまった。
セルティが近づいてくる事に気づいて慌てて静雄を放って隠れたけれど、では、仮にあの運び屋が通りかからなかったら自分はどうしていたのだろう。
興味を抱くけれど、なんとなく知りたくなかった。
不快な結論が待っているだろうから。
「うーん…疲れてるのかなぁ、俺」
呟いてみるが、当然そんな事があるわけがなかった。疲れている状態で池袋最強を追いつめることなんて有り得ない。化け物と相対するには、それ相応のコンディションというものが必要なのである。
臨也は、普通の人間なのだから。
それに、自殺志願者でもない。
…だから、あの言葉が頭から離れないのだろうか。
「『生きてるからだろ』…ねぇ?」
血が赤いのはどうしてかと問いかけた『人間』に、『化け物』は答えたのだ。
生きているからだ、と。
血が赤いのは生きているから。生きているから血は赤い。
じゃあ死んだら血は何色になるのかと訊こうと思ったら、その時にはすでに彼は意識を手放していた。もう、ではなくて、やっと、彼は気絶した。薬を使ってはいなかったけれど、あれだけ血を流してあれほど意識を保っていられたのは、異常だ。
その事を思い出しながら、考える。
…彼が気絶してしまった事、これも理由の一つだろう。
そのせいで続けての質問が出来なくなってしまい、直前の質問を意識するようになった。
…意識すらしっかりと持っていない様子で答えられた、それも理由の一つだろう。
零されるように、けれどハッキリと言われては、嫌でも印象に残る。
それらが積み重なった結果、とどめを刺そうという気が削がれてしまったのだ。折角の、一年…あるいは一生にあるかないかの大チャンスだったのに。
化け物のくせにあんな事を突然、あの状況で言いだすからいけないのだ。
いつものように『知るか』と、それだけ答えられたらきっと躊躇い無く殺せたのに。
本当に、ままならない。
そして、今回一番ままならなかったのは自分自身だった。
「それもこれも全部……赤い血なんて流してるシズちゃんが悪いんだよ」
自分でも分かるくらいに理不尽な言葉を吐いて、くるりと辺りを見渡す。気がつけば、そこは昨夜…静雄を追いつめた場所だった。
いつの間にか、で来るような場所では無かろうに。自分の無意識に苦笑しながら、血痕が途切れている場所の、直ぐ前に立つ。ここに、昨夜自分は立って、壁にもたれて座り込んでいた彼を見下ろしていたのだ。
疑問なんて覚えなければよかった。質問なんてしなければよかった。そうすれば、何の問題もなくナイフを眼球にでも突き刺せただろうし、舌を切り落とすことだってできただろう。あのまま放っておいても、殺せたかもしれない。
そう思いながら、それでも後悔が無い自分に吐き気を感じながら、もう一度呟く。
「『生きてるからだろ』……かぁ」
あの言葉を訊いて。
少し、ほんの少し。
ホッとした自分は何だったのだろう。
生きているなら殺せるのだと、確信できたからだろうか。
ならばどうしてそこで殺さなかったのか。
意識を失って死体のようになった彼の頬で、確かめるように何度もナイフを動かしたのは何故なのだろう。
死んでいないのか、知りたかったのだろうか。
ならばそれは、どうしてなのか?
それらの疑問の答えが、全て静雄を運んでいた自分の行動によって表されているような気がして、やれやれと首を振る。
「俺をこんな気持ちにさせるなんて、」
呟いて、空を見上げる。
「ホント、シズちゃんなんて大嫌い」
死ねとか殺すとか言い合って、でも相手が死ぬような場面が想像できない二人だったらいいなぁって思ったりしてます。その結果がこれかといわれると…どうなんだろう。
死ねとか殺すとか言い合って、でも相手が死ぬような場面が想像できない二人だったらいいなぁって思ったりしてます。その結果がこれかといわれると…どうなんだろう。
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