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紫陽花のお題:08とつながってます。
09.録音ボタン
でん、と目の前に置かれたそれに、一瞬何が何だか分からなくなった。
呆然とそれを置いた人物を見やると、彼女はにこりと笑って本を差し出してきて。
思わず受け取って、表紙を見やる。
「……マイスターズ・ドラマCD計画…?」
「そうよ!」
ぐ、と握り拳を作って彼女……スメラギ・李・ノリエガは言った。
「私たちが直面しているかつて無い危機……金欠!…それを打開するための次のミッションプラン、それがこれなの」
「…いや、他にも色々あるよな?普通にアルバイトとか出来るよな?」
「個人情報を流すわけにはいかないじゃない。守秘義務があるのよ、守秘義務」
「偽の履歴ぐらい用意できるだろ!?」
「面倒じゃない」
さら、とそんな事を言われて、ライルは呆然となった。
金欠だから金を稼ごうと言うのは分かる。分かるけれど、この間の本の原稿と言い今回のドラマCDとやらと言い……手段がどうにも偏っている気がするのだが。主に、スメラギが楽しんでいるだろう方向に。
原稿に関しては結局全員やったりしたけれど、流石に今回は誰も従わないだろうと、ちらりと自分と同じように目の前にマイクを置かれているマイスターたちを見やる。
けれども。
「ドラマCD……またあの疑似人格を演じることになるのか……」
「そんな事を言っている場合ではないぞ、刹那。…僕の美少女設定が今回は全く無くなってしまっているとはどういうことなんだ…」
「僕……またハブられてる……」
…それどころではなかったようだ。
ずぅうぅぅぅんと気を落ち込ませている三名を見やり、ライルは無意識のうちにその身を半歩引いていた。何だこの負のオーラは。
しかし…とりあえず、これが初めての収録で無い事は分かった。そして、前回は散々で今回も散々なのだということも理解した。先輩三人がそれぞれ呟くのが「疑似人格」「美少女」「ハブられる」……最後の一つが何か物悲しいが……とにかく、まともな物語であるとは考えにくい。まだ台本に目を通せてない自分が言うのも何だが。
こうなったらやる事はただ一つ。
くるりとスメラギの方を向いて、ライルは口を開いた。
「俺ちょっと用事思い出したから帰、」
「ここ宇宙よ?」
「……あ」
そういえばそうだ。ここはトレミーの一室で、自分たちの乗る艦は現在進行形で宇宙を進んでいる所である。これではどこにだって、帰るに帰れないだろう。というか、帰る場所って今はここじゃなかっただろうか。
ちょっとマズッたかなぁ…と、若干の冷や汗を流していると、戦術予報士が改めてこちらを向いて……凄みのある笑みを浮かべた。
「それで……どうやって、どこに行くの?」
「…すみません。俺の勘違いでした」
…そんな彼女に対して、言えるのがそれだけであるというのは…悲しかった。
ほんの少し泣きたい気持ちに襲われている事に気づきもせず、彼女は首を傾げる。
「そ?なら良いけれど…あ、そこの三人、誤解してるみたいだから言うけれど、今回のシナリオはミレイナが考えたのよ。台本の中にも書いてあるでしょ」
「本当か!?」
「何だと!?」
「ミレイナまで僕をハブられキャラだと思ってるの!?」
言われて、慌てて確認する三名。その内の一人のセリフが相変わらず涙を誘う物なのは……きっと仕方がないに違いない。そういう運命なのだと思っておこう。
「…と、俺も確認しねぇと」
主に台本の中身を。
ようやくペラペラと薄い本を捲り出したライルだったが、次第に表情が険しくなるのを止める事は出来なかった。
同様に三名も思ったらしく、彼らも一斉にスメラギを見やる。
「…スメラギ・李・ノリエガ…この武士仮面というのは」
「友情出演よ。私じゃなくて別の人との友情だけど、その人と私が友達だから」
「では…このリボンズ・アルマークというのは何ですか」
「あ、ちょっと頼んだらノリノリでオーケーしてくれたわよ」
「ラッセさんのセリフが一言も無いんですけど……」
「全力で拒否されたわ。何でかしら」
本気で不思議がるスメラギに、悟る。
逆らおうとするから駄目なのだ。流れというものは間違いなく存在していて、故にその流れに身を任せることも大切なのだ……と。
投げやり理論だが…その流れが激流だったのだから仕方ない。
笑顔の戦術予報士が録音ボタンに指を伸ばしたところで、ようやくライルは諦めた。
そんな感じでドラマCDが作られたのでした…なんて、ね。
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