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学生時代の馬さんと鮫さんのお話です。ちょっと続く。



 弱い。
 全く、どうしてこんなに弱いくせに。
「退屈だぁ…」
 足下に何人もの同年代を転がした状態で、スクアーロは欠伸をした。一人一人は弱くて弱くてどうしようもないほどで、しかし固まって掛かってくるなら多少は手応えがあるか、なんて思ってみたりもしたのに。
 とんだ期待はずれだった。
 というか、こんな相手に期待をするのが間違いなのかも知れない。
 きっとそうだと結論づけて、剣に付いた血を一降りして払い、それから呆れながらも、ため息はどうにか堪えて言う。
「いるんなら出てこい、へなちょこ」
「へなちょこじゃなくってディーノだって言ってるだろ」
 不満を零し木の陰から現れた明るすぎる金髪に目を細め、剣を鞘にしまいながら耐えきれずにため息を吐いた。へなちょこと言うな、などと。
「そんなら隠れずに出てくりゃいい。そうすりゃ多少は認めてやるぜぇ?」
「…それはその…まぁ別問題って事で」
「どこがだぁ」
 そうとだけ返して歩き出せば、視線を明後日の方向に逸らしていたディーノは慌てて自分の後を追いかけてきた。その行為に意味など見いだせるわけもなく、しかし別に気にもならないので放っておく。最初の方くらいだった、犬のように付いてくるなと何度も何度も言ったのは。
 今では慣れてしまって、もう何も思わないくらいである。
「追いてくなんて酷くない!?」
「酷くねぇよ」
「な…っ…!どうしてそんなこと言うんだよ!」
「言うに決まってんだろーがぁ!俺がテメェを待つ理由が一体どこにあるのか言ってみやがれこのガキがぁ!」
「ガキって、スクアーロだってガキじゃん!俺と同い年だろ!?それに俺の方が早く生まれてるしガキじゃねぇよ!」
「一ヶ月くらいでそんな威張んなぁッ!」
 叫んで、我に返って首を振る。
 …何か違う。最近ディーノと会話していて思うのだが、何かが違うような気がするのだ。
 何だろう、確か自分は恐れられているのではなかったのだろうか。詳しくは知らないし、その情報すらもディーノに知らされたのだが、だが……その知らせた張本人がこんな様子というのは違う何かの筆頭にあげられるのではないだろうか。
 つまり、まぁ。
 感化されている、といっても間違いではないのだろう。
 …腹立たしいことこの上ないことに。
 スクアーロとしては、自分より弱い相手を認めるつもりはない。同格か、それ以上でなければ気にもとめないつもりだ。それをふまえてみると、ディーノは間違いなく『アウト』だった。弱いし臆病だし取り柄なんてどこにもないし、どうしてこの相手をかっ捌いていないのかが時折不思議になるくらいの相手。
 なのに、この現状は何だろう。
 全くもって不可解だった。
「……?どうかした?」
「…なんでもねぇ」
「変なスクアーロ」
 そう朗らかに笑う彼と自分とは、話しかけるには言葉を交わすにはあまりにも厚い壁があったはずなのだが、そういえばそれはどこへ行ったのだろう。
 わけが分からないとはこのことだ。
 いっそディーノを斬り殺してしまえばこの不可解さも奇妙さも気にくわなさも何もかもが消えるのかも知れないが、どうしてだかそれを行う気にはなれなかったのである。
 それすらも苛立たしいというか。
 けれどどうしようもないというか。
 袋小路、ということ。
「ていうかさ、何も殺さなくても良かったんじゃないのか?」
「あ゛ぁ?」
「普通に気絶させるだけじゃだめなのかよ」
「知るか。アイツらが勝手にケンカうってきたんだからなぁ」
「けど…」
 何とか反論しようとしているディーノを見て、す、と目を細める。
 そうだ、やはり、こいつは『甘い』。甘すぎて甘すぎて鮫の胃には収まらない。口に入るかさえも疑わしいほどに、相容れない存在だ。
 だからこそ、手を出す気にはなれないのか。
 住む世界が違う相手は、敵にさえもなりはしない。
 恐らく、そういうことなのだろう。
 そう思うことに、した。





このころのディーノさんは現在と比べると本当に甘いだろうなぁとか。
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