剣と仇敵

臨也と自殺オフの人のお話。っていうか、臨也しかしゃべってないです。

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　例えばここに剣があり、目の前に憎い仇敵がいるとしよう。え？憎い相手なら目の前にいるって？やだなぁ、そんなの知ってるよ。自分の事だしね。でもまぁ、これは例えばなしだから俺以外の誰かを想像して。無理とか言わないで頑張ってよ。

 

　ま、ともかく、君がそう言う状況にあるとしよう。

　さて……君はどうする？

 

　間違いなく、傍にあった剣を手に取り、仇敵に向かって行くんだろうね。相手が自分より強いか弱いかなんて関係なく。だって憎んでいるんだから。怖気づいている暇なんて無いよねぇ。憎悪と言う存在はあまりにも偉大で傲慢で尊大で、俺たちの様なちっぽけな人間が抗う事なんてできるワケが無いんだから。

　良い例が君だよね。俺に憎しみを持って、その憎しみに突き動かされるままに頑張ってきたんだし。大切な大切な、君自身のためだけに使える時間を消費し続けてね。

 

　あぁ、誤解のない様に言っておくと、それが悪いんだと言っているわけじゃないんだよ。

 

　むしろ、俺はそれを進んで受け入れるね。たとえどれほどドロドロと濁った心だとしても、それが人間のモノならば無条件で肯定するさ。

　そういう意味で言うなら、君のあの行動はある意味失敗だよねぇ。残念残念。

　でも、そういう所も含めて肯定するよ？君の感情も、君の行為も、君の意思もね。

 

　だって君は人間で。

 

　俺は、人間を愛しているんだから。

 

　愛する人間たちのモノならば。

 

　それがどれほど醜い物だろうと関係ない。

 

　とまぁ、こう言う事。

　そして話を戻すけれど……君の取るであろう、あるいは既に取ってしまった行動は、いたって普通の面白みのない物だ。陳腐と言い換えても良い。ありふれたもの、とも表現できるだろう。何度も言うけれど、憎悪は強いからね。

　でも、それの何がいけないんだろう、と、俺は思うわけだよ。

　逸脱が無い事は実につまらない事だ。けれども、同時にそれは何よりも安心できる事実だと思わない？つまり、そういうことさ。

 

　逸脱と言えば……俺の知り合い……と呼ぶのも嫌で鳥肌が立ちそうな化け物がいるんだけど、アイツだったらどうするんだろう。剣を使って敵を倒しに行くと思う？

　俺は、そうは思わない。使ってもせいぜい相手に投げつけるとかいう、剣の用途から遥かに離れた事に使うんじゃないかな。そんな物を使うより素手で行った方が早いからねぇ、アイツの場合。そう言う事を全く考えずに、直感のままに動いてくれそうだけどね。

　……全くさぁ、あんなのを人の括りに入れちゃってるみんなの気持ちが分かんないよ、本当に。どう考えたってアイツ、人の皮を被った化け物じゃないか。

　化け物なら化け物らしくしておけば良いのにさ、本人が人間であろうとしているんだから不快で、不愉快で、滑稽で、おぞましくて、嗤えるんだよねぇ……いい加減に諦めてしまえば良いのに無駄に退化なんてしちゃってさ。そんな事をしても意味ないんだって、そろそろ教えに行ってあげた方がいいのかな？

 

　……おっと。話が逸れたね、ごめんごめん。それにしても、我ながらあんな奴の事を長々と語っちゃって気分が悪いよ。ん？そう見えない？笑ってる？……酷いなぁ、目の奥まで見てくれた？俺はとても吐きそうな気分なのにさ。いやぁ、本当に気持ちが悪い。

　と、謝ってみたは良いけれど、実は話はもう終わってるから逸れるも何も無いわけで、話が逸れた謝罪だってつまりは意味が無いんだけどね。しかし君の時間を余計に奪ってしまった事への侘びと、俺の何となくの気まぐれを理由に一つ、教えてあげよう。

　何をって？それはもちろん俺の事さ。無料だから安心してくれて良いよ。

 

　さっきの剣の話なんだけど、俺だったら他人をそそのかせて剣を握らせて、その人に俺が嫌いな奴を害させるよ。だって、自分でやったら俺が殺人犯になるし、それって何だか嫌じゃない？

　でも、さっきの化け物が相手だったら話は別。

　俺はきっと、ナイフを片手に彼に向って行くんだろうね。

　理由？そんなの訊きたいの？

 

　簡単な事さ。

 

 

　それはアイツがアイツだから。

 

 

 

　理由なんてたったそれだけの事で、そしてこれだけで……十分なんだよ。

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そして出てきていないシズちゃんの話がいやに多い。仇敵、なんてテーマが入る時点でそれは当然といえば当然かもしれないけれど。